情報過多時代の食と健康の考え

 

  ✲酸素を積極的に摂取するのは実は危険?

  運動有害論を唱える人がいます。運動で酸素をとり過ぎると活性酸素が体内で増えるからよくない。また、「普通の水より酸素が10倍多い」ということをウリに

  しているミネラルウオーターがあります。酸素を積極的に取ることは、体に良いのか悪いのか?改めて言うまでもないが、人の生命活動に必須の酸素は大気中から

  肺を経由して生体内へ取り入れられます。運動時には安静時よりも酸素をたくさん消費する為に酸素の摂取量が多くなり、活性酸素の発生を増加させるので

  体に良くない。という噂を聞いたことがるが専門家に論じてもらいます。大気中の酸素濃度が低いと生命活動が危うくなるし、高過ぎても良くないことは事実ですが、

  飲み物や食べ物に含まれる酸素が「体に良い・悪い」という話は聞いたことがありません。しかしながら、酸素が多いことをセールスポイントにする水が現実に

  販売され、また酸素を呼吸だけでなく体内から吸収すると、体内の細胞が活性化され、知らぬ間に持久力がつくと説明する人もいます。

  経口的に摂取した酸素が呼吸活動に使われることはないが、飲用する水に酸素が多く含まれていることに何か意味があるのでしょうか?

  ✶食事をとおして摂取した酸素の行方→肺は二酸化炭素を吐き出し、酸素を取り込む呼吸活動を休みなく行っているが、消化管にも酸素は入りこんでいきます。

  唾液を飲み込む時や食事の際に、知らぬ間に空気を飲み込んでいるし、パンなど食品中にも結構たくさんの空気が含まれているからです。空気の約20%は酸素

  なので、食塊とともに空気を飲み込むということは、即ち酸素を消化管に送り込んでいることになります。成人では1日に数ℓの空気を飲み込んでいるとのことです。

  しかし、消化管に入ってきた空気を生体が利用することはありません。その多くはゲップとして再び口から派出され、一部が食塊とともに消化管を前進し、他の気体

  と混合し「おなら」として肛門から排出されます。そして一部の酸素は消化管内の好気性菌によって利用されると考えられています。

  ✶腸内細菌への影響は微々たるもの→多くの動物は酸素がないと生きていけませんが、微生物の中には酸素があると生きられないものもあります。

  有酸素環境を好む細菌を好気性菌、無酸素環境を好む細菌を嫌気性菌というが、酸素があると死んでしまう細菌は偏性嫌気性菌といいます。小腸や大腸には

  大量の細菌が住みついており、腸内細菌叢を形ずくっています。小腸上部は飲み込んだ酸素が残っている環境ですので好気性菌が住めますが、小腸下部から

  大腸にかけては酸素濃度が非常に低い環境となり、偏性嫌気性菌が優勢になるが、腸内環境に与える影響は微々たるものと思われます。

  ✶きれいな水ほど、溶存酸素は多いけれど・・・→液体中に溶解している分子状の酸素を溶存酸素といい、その量はppmで表します。温度や気圧によって変動するが

  塩類濃度の低い水(ミネラルの少ない)では20℃・1気圧の時に約9.17ppmの酸素が溶解しているとのことです。下水や排水などのように汚染した水の中には

  酸素を消費する有機物が多いので、溶存酸素の量が少なくなってしまいます。一方、きれいな水の中にはたくさんの酸素が溶け込んでいます。溶存酸素量は

  水質汚染の良好な指標とされ、水質検査の重要な項目とされています。酸素が多い水の宣伝ではこの溶存酸素という言葉を使っているものがあります。

  「普通の水道水の溶存酸素量は6〜10ppm程度。○○水は△△ppm」と、製品の溶存酸素量を誇っているものです。確かに水質汚染の指標として見た場合、

  溶存酸素量が多いことはよいことですが、食品工業的には厄介者扱いです。溶存酸素量が多いと食品成分を酸化させ、劣化させるからです。その他の産業分野

  でも、溶存酸素量の多い水はボイラーを腐食させるので、脱気装置を使って溶存酸素量を除去する操作が行われています。このように、エネルギー代謝には

  必須の酸素ですが、飲食物から経口的に摂取する意味はないと考えます。

  ✲食は本当に体にいいのか?

  近頃よく粗食というフレーズが使われます。以前太っていた友人も、粗食に切り替えて痩せたと言っているが、私の目にはやつれてきたという風にしか見えません。

  確かに現代の日本人は栄養過多の人が多いと思いますが、日本人の寿命をここまで延ばしたのは栄養の充実も要因の1つだと思います。それなのに粗食の生活に

  戻って本当に良いのでしょうか?食と健康の関係についての論は関心の高まりを背景に百家争鳴の状況にあり、人々をあっと言わせるような説が時に出現します。

  例えば、「朝食有害論」「牛乳は飲むべきでない」「粗食こそ健康・長寿の元」など、定説を覆すような論が話題となり、そして、いつの間にか忘れ去られていきます。

  様々な思惑が絡んでこういった論が話題になると思うが、一時的にせよ、そういった説に影響されて自分の食生活を変動させる人も少なからずいると思います。

  「粗食」が関心を集めるようになったのは、「粗食」を勧める本が2000年にベストセラーとなったことにあるようです。以前からも「粗食こそ健康食」という噂もありました。

  ✶ベストセラーの「粗食」と本当の粗食は、全く別もの→本来、粗食とは粗末な食事のことです。ブームとなった「粗食」は未精白の米飯と味噌汁を基本にすえ、

  野菜を中心としながら豆類、海藻、魚介類を配した副食で構成されるもののようです。動物性食品は魚介類と卵をたまに使うだけ。肉類や牛乳は使用せず、

  和風の献立を主とすることで「粗食」とい言うらしいのですが、これは決して「粗食」ではなく、簡素な食事、質素な食事、あるいは地味な食事と言うべきものです。

  獣肉類や牛乳・乳製品を排斥する点に不自然さを感じるが、食欲旺盛で食べ過ぎているような人には一定期間、試してみると体調改善減量に有効かもしれません。

  しかし長期間続けることが有益であるか否かについてはわかりません。又、胃腸が丈夫でない人や、小食の人の場合、必要な栄養素を確保できるかどうかも疑問です。

  話題となっている「粗食」を知らない人達に粗食とはどんな食事ですかと聞いてみると「ご飯、味噌汁、漬物だけの食事」であり、しかもお腹いっぱい食べられない 

  というイメージが圧倒的に多いものでした。豆腐も納豆も、海藻も魚の干物も出てこない寂しい食卓でした。これが本当の粗食とは断定できないが非常に貧しい

  食事のことです。このような食事が体に良いはずがないのは改めて言うまでもありません。

  ✶国民栄養調査の結果に見る、現代人の肥満と痩せ→2000年の国民栄養調査の結果(下表)で肥満者の割合と痩せの者の男女差の大きいのが印象的でした。

   

  80年、90年、そして2000年の推移を見ると、男性では年次ごとに全ての世代で肥満の割合が増加しやせ者の割合が減少しています。しかし、女性では20〜50才代迄

  肥満者の割合は減少し、20及び30才代のやせ者の割合は大きく増えています。女性で肥満の増加と痩せの減少が見られたのは、60〜70才代だけです。

  飽食の時代と言われてすでに久しい状況を考えると、肥満の増加・痩せの減少は当然の成り行きです。これを放置することは出来ないが、目指すは肥満と痩せの減少

  であり、肥満が減りさえすれば痩せは増えてもかまわない、ということではないはずです。女性の肥満が減少していることは、それだけを見れば結構なことですが、

  同時に痩せが増加していることを考えると、必要以上の「痩身願望」が、食べない女性を増やしたために肥満者が減少したと解釈せざるを得ません。

  良好な食生活を営みながらも、太れない痩せている人はいます。従って、痩せている人が全て低栄養状態にあるわけではないが、痩せる為に、意図的に粗食に甘んじ、

  低栄養状態に陥っている人も少なからず存在すると思われます。太り過ぎが不健康であることが強調されるあまり、痩せていることは健康という誤解が生まれ、

  痩せ過ぎていることの不健康さに関心が向けられない現状は問題であると思います。また、不適切な食べ方への注意喚起がエネルギー摂取過多、即ち、肥満防止

  だけを想起して発信されていることも見直さなければなりません。

  ✶健康だけを考えて食べることが、本当に理想的なの?→欲望の赴くまま、美味しいから食べる、美味しくなければ食べない、というのもどうかと思われるが、

  健康の為ならまずくてもいい、というものでもないでしょう。精白米より玄米が多様な成分を含み、総合的な意味で健康には好ましかろうと考えても、味わいや美味しさ

  の点で受容できる人とできない人がいます。受容すべきと断ずることにも無理があります。肉は駄目というのも「肉食禁止令」の時代に逆戻りするようです。

  人間が雑食性の従属栄養生物であることを考えると、動物性・植物性の多様な食品を適度に摂取することが妥当と思います。多くの研究結果を根拠に 

  栄養学の衆知を集めて栄養教育は行われています。良好な食生活がもたらす健康を多くの人が享受していることは、日本が世界一の長寿国になったことにも

  反映していると言えるでしょう。低栄養時代を経て過剰栄養が大きな問題となっているが、一方で経済的に貧しいわけでもないのに低栄養状態の人がいることも

  忘れてはいけません。思想信条或いは思い込みに基ずき、誰がどのように説を流そうと勝手ですが、特殊な食事法によって健康状態が改善したという人がいても、

  それで長寿を全うしたという人がいても、それは個人的体験にとどまることです。栄養状態の向上が健康にもたらした数々の恩恵を再確認し、食べ過ぎることなく、

  同時に粗食に過ぎることのない適切な食事摂取をも大切にしたいと思います。