情報過多時代の食と健康の考え

 

  ✲野菜を食べ過ぎると糖尿病に?

  上記のような本が数年前に出ました。ハウス栽で栽培された野菜には窒素肥料から派生する硝酸塩が多く、糖尿病になりやすいという内容です。

  たくさん食べましょうと勧めこそすれ、控えましょうとはまず言わない野菜の摂取です。しかし、それが病気の原因になっているとすれば大変なことです。

  その根拠は@最近の野菜は窒素肥料をたくさん使っているので硝酸塩が多い A摂取した硝酸塩は亜硝酸になり胃の中でニトロソアニンを生成し、吸収されて  

  膵臓のβ細胞を傷つけインスリンの生成を妨害し、インスリン依存性糖尿病を引き起こす B人工透析患者率が高い県と窒素肥料の使用量が多い県と一致している

  の3点です。かなり乱暴な論で、結論から先に言ってしまえば、不安を煽ることに終始する本の類です。反論として@については、野菜に硝酸塩が多いことは

  最近になって始まったことではない。Aに関しては糖尿病患者は増加しているが、増えているのはインスリン依存性の糖尿病(T型)ではなく非依存型(U型)の糖尿病です。

  Bに対しては糖尿病の合併症として腎臓が障害され、透析療法を受けねばならない人が増えていることは事実だが、糖尿病性腎症による透析治療患者は

  全体の約20%です。窒素肥料使用量と透析患者率の間で、仮に関連があるとしてもそれは腎不全との関連で、いきなり糖尿病に結びつけるのは強引過ぎます。

  しかしながら、硝酸塩は食品添加物としても使われており、食生活上の不安物質の1つです。

  ✶野菜には何故硝酸塩が含まれるのか?→植物の生育には窒素が必須ですが、その形態はアンモニウムイオンか硝酸イオンに限られ、大気中の窒素や窒素化合物

  である蛋白質はそのままでは利用できず、微生物などの働きを受けて利用できる形になります。堆肥などの有機質肥料は窒素が蛋白質の形なので、

  土壌中で微生物などによって分解されて初めて利用可能となります。根から吸収されたアンモニアは直ちにアミノ酸に合成されて地上部へ移動するが、硝酸の多くは

  そのまま葉へ運ばれます。そして、葉の細胞質で硝酸還元酵素により亜硝酸に還元されると葉緑体内へ取り込まれ、幾段階を経てアミノ酸へと変換されていきます。

  食品中の硝酸塩の含有量は硝酸イオンを測定して「硝酸根」として表すが、これを硝酸塩含有量とする場合もあり、また硝酸イオン量に0.2258を乗じると  

  硝酸塩をその窒素量をもって表す硝酸性窒素の量となります。

  ✶硝酸イオンの多い野菜・少ない野菜→トマトやきゅうりなど、果実部分を食べる野菜には少なく、小松菜や野沢菜、ニラやほうれん草など、茎や葉を食用部位とする

  緑黄色野菜に多い。

  ✶肥料が作物と地下水に及ぼす影響→窒素肥料や家畜糞を多投入して栽培すると野菜中の硝酸塩濃度はある程度高くなるが、比例的に増加はしません。

  しかしながら、畑に投入され、植物体に取りこまれなかった窒素化合物は、降雨などの影響で土壌の下層部に移行し、やがて地下水を汚染することになります。

  高収量を目指して必要以上に大量投入した窒素肥料が地下水を汚染すれば環境問題となり、水道水の基準として、硝酸イオンが10mg/ℓ以下であるとされている。

  ✶硝酸塩はどう健康に影響を与える?→硝酸塩である硝酸カリウムと硝酸ナトリウムは食品添加物としても利用されているが、日本人の食品添加物1人1日摂取量

  によると、硝酸イオンは約190mg、その90%は野菜から摂取していることになり、小松菜を100g食べただけで1日摂取許容量の2倍以上となります。

  ✶亜硝酸塩の健康への影響→植物の窒素源として重要な硝酸塩ですが、人体にとっては有害とさてきました。但し、硝酸塩そのものが有害ではなく、硝酸塩が

  口腔内細菌によって還元されて生成する亜硝酸塩が問題で、摂取した硝酸塩の約5%が亜硝酸塩に転換するとされています。その理由は吸収され血流中に入った

  亜硝酸塩がヘモグロビンと反応して、酸素運搬能力に欠けるメトヘモグロビンに変化し、これが多過ぎるとメトへモグロビン血症となり呼吸困難を引き起こすことです。

  もう1つは口腔内で生成した亜硝酸塩が、胃の中で魚などに由来する2級アミンと結合してニトロソアミンを形成することで、これは動物実験で発癌性が認められているが

  人への影響は未定です。硝酸塩摂取と癌の関係を調べた疫学調査の結果はまちまちです。悪影響だけが言われてきた硝酸塩摂取ですが、野菜摂取量の多い

  ビジタリアンは通常食の約3倍の硝酸塩を摂取していながら、胃腸の癌はむしろ少ないという疫学的調査結果もあります。常識の範囲内で食べる緑黄色野菜や  

  加工食品に含まれる硝酸塩は、それほど心配しなくてもいいようです。

    

  ✲ッとなりやすい人はカルシウムが足りないってホント?

  カルシウムの欠乏や塩分の過剰が、本当に人の気性に影響を与えるのでしょうか?根拠となる調査があるのか?一般書やインターネット情報では

  「カルシウムは神経伝達に関与して、中枢神経を鎮め、神経や筋肉の興奮を和らげ、イライラや過敏症を抑えてストレスを緩和する」ナトリウムに関しては

  塩分を多く含んでいるものは副交感神経に作用して体全体を緊張させ、怒りっぽくなったり、落ち着きがなくなったりする」と書かれたものがいくつかありました。

  しかし、栄養学や生理学関係の専門書にはそのような記述はありません。カルシウム不足や塩分過剰と精神的不安定さを関連ずけたデータはありませんでした。

  ✶血中カルシウムは常に一定に保たれている→言うまでもなくカルシウムは骨格成分としてだけでなく、生理機能の維持に重要な役割を果たしています。

  その99%は骨格中に、残り1%が血液と細胞外液中に存在し、血中カルシウム濃度が約10mg/100㎖にコントロールされていること、血液中のカルシウム濃度が

  低くなる低カルシウム血症では神経細胞や筋肉細胞の興奮性が高まり、筋肉の痙攣や全身性の痙攣が起こるとたいていの生理学の本には書かれています。 

  さらに、血液中には一定量のカルシウムが存在することが生命活動に必須である為に、カルシウムの血中濃度を一定に維持するための仕組みが備わっている

  ことも必ず記されています。即ち、血中カルシウム濃度を検知するシステムが生体内では作動しており、血中カルシウム濃度が低くなると副甲状腺ホルモンが

  骨からのカルシウムの溶出を促進し、腸管からのカルシウム吸収を高め、腎臓からの排泄を抑制して血中カルシウム濃度を元に戻そうとする。逆に、血中カルシウム

  濃度が高くなるとカルシトニンが分泌されカルシウムを骨に吸着させて血中濃度を低下させようとするとする仕組みのことです。この仕組みが何らかの原因で

  破綻した時に低カルシウム血症や高カルシウム血症が起こり、それらはいずれも生体にとってかなり危険な状況を意味します。人はカルシウムを食事から

  摂取しなければなりませんが、食事中のカルシウムは多い日もあれば少ない日もあります。食事由来のカルシウムが多くても少なくても、血中カルシウム濃度が

  変動しないよう、骨がカルシムの“銀行”となって、主に副甲状腺ホルモンとビタミンDとカルシトニンがカルシウム血中濃度の維持に働いているのです。

  ✶カルシウム摂取不足と低カルシウム血症の混同があるのでは?→カルシウムの摂取不足が直ちに低カルシウム血症を引き起こすかのように誤解され、

  だから「カルシウム不足で神経イライラ」と言われるのでは?血中のカルシウム濃度が低下するとそのような異常が起こることは事実でも、食事からのカルシウム

  摂取が不足するために低カルシウム血症が起こるわけではありません。低カルシウム血症は血中カルシウム濃度を一定に保つ仕組みがうまく働かなかった時に

  起こるのであって、食事からの摂取が少ないとすぐに起こるのではないことが理解されていない為の混乱が、このような説を生んでいるのではないかとと思います。

  骨がカルシウムの“銀行”の役割を果たしているとはいえ、食事からのカルシウムが慢性的に不足していれば貯金は減る一方です。減らさない為には

  毎日きちんと一定量のカルシウムを摂取することが大切です。もう1つの「ナトリウム過剰で怒りっぽくなる」という話の出所は想像もつかず、ナトリウムの過剰摂取が

  カルシウムの尿中排泄を増加させ、結果的にカルシウム不足になるから、ということなのでしょうか?食べることを軽視して、カルシウムの摂取量が少なく、

  食塩摂取量が多い食事パターンの生活態度が、イライラしたり、怒りぽかったりするということに影響する可能性も無視できません。