生命の回数券テロメア  

  ✲個体の寿命と細胞の寿命 

  生物の寿命が尽きるということは科学的にどういうことか?これには個体の構成要素である細胞に寿命が大きく関係しています。ということは細胞にも寿命があるのでしょうか?

  細胞の死=個体の死ということなのかという疑問が出てきます。実験研究で培養液を入れたガラス瓶に細胞を入れ保温しておくと、細胞は次々と分裂をして増え続け、

  最後はガラス瓶一杯にまでなるが、ここで分裂は止まってしまいます。これはコンタクトインヒビジョンと呼ばれる現象で、細胞はお互いが触れ合うようになると、それ以上

  分裂しなくなる性質を持っています。しかし、ガラス瓶の中の一部の細胞を同じ条件の別のガラス瓶に移すと、細胞は再び分裂し始めるということです。この現象を細胞の

  「うえつぎ」と言います。細胞の培養は1950年頃から盛んに行われるようになり、人間の細胞に何度もうえつぎが行われていました。しかし、不思議なことにビンの中で

  どんどん増え続けるは、癌細胞ばっかりだったのです。正常の細胞は、何回か分列を繰り返すと、半年くらいで分裂しなくなるのでした。始めは実験ミスかと思ったが

  1960年代に入って米国の生物学者レナード・ヘイフリックにより、新たな事実が導き出されました。人間の胎児の細胞は、約50回分裂を繰り返すと分裂能力を失うが、

  成人の細胞は約20回の分裂で分裂能力が失われることを彼は発見しました。更に胎児の細胞を20回分裂したところで液体窒素の中で凍結した後、再び培養

  してみると、再度分裂を始めたが、分裂能力は30回で終わりました。別の実験で、若い人の細胞と高齢者の細胞とを一緒のガラス瓶で培養すると、それぞれは相手の

  影響を受けることもなく、生まれてから50回分に相当する回数で分裂能力を失いました。この実験から、彼は、正常な細胞は決まった回数しか分裂しないということ、即ち

  細胞には寿命があることを突き止め、「ヘイフリックの限界」の学説を発表しました。これは人の老化のメカニズムを知る上での画期的な大発見でした。

  細胞はDNAの自己複製により分裂します。細胞が分裂すると基本的には全く同じDNAがコピーされるわけです。細胞の寿命は分裂している間は、生きながらえていると言え、

    分裂が止まった時が、死んだ時と言えます。細胞に寿命があることは事実ですが、細胞の老化=個体の老化という訳にはいきません。何故なら個体は多くの臓器から

  成り立っているからです。臓器は様々な種類の細胞が集まった組織から成り立っています。組織の中でもそれぞれの細胞の性質が異なっているため、老化の進み具合も

  異なることになります。しかしながら、人間の個体は60兆の細胞の集合体ですから、人の老化と細胞の老化とは非常に密接な関係にある、ということは言えます。

  動物の胎児の細胞分裂能力と寿命との関係の面白い実験報告があります。寿命175年のガラパコス亀が72~114回、寿命80年くらいの人が40~60回、寿命30年の

  鶏が15~65回、寿命2.5年のハツカネズミが14~28回となっています。これは培養細胞と個体の寿命との間に、確実に関係があると思わせるものです。

  ✲クローン羊の意味するもの

  1996年、人類史上かってない大発表がなされ世界中が驚きました。スコットランの研究所で世界で初めてクロー羊「ドりー」が誕生したニュースです。ドリーは雌の羊の

  体細胞を使ったクローン羊で、生体の体細胞を用いた哺乳類初のクローンです。2年後に、子羊のポニーを出産しています。これによってクローンも正常な羊と同じように

  生殖能力を持つことを証明しました。子羊を生んだドリーでしたが、ドリーは誕生後間もなくから短命の可能性が高いといわれていたのです。その理由は、ドリーは1才当時

  すでに老化と大いに関係のある「テロメア」が正常の羊と比べて20%も短く、6才の羊のそれと同様の長さになっていることが分かったからです。ドリーの老化の進行の

  早さの理由は、ドリーの誕生に使われた細胞核がすでにある程度老化の進んだものだったことにあります。ということはドリーは老化の進んだ「テロメア」をそのままコピーして

  誕生している可能性があるということです。5才半になったドリーは、老化現象の足の関節炎を患っています。また、正常な羊の寿命は10~13年といわれているが、

  6才7ヵ月の時に再起不能の病となり安楽死させられています。これはクローン研究者に大きな衝撃を与えました。テロメアと寿命にまつわる話ですが、テロメアを

  コントロール出来れば、癌細胞を死滅させたり、老化を防ぐことができると、研究者の間で期待が寄せられています。人も動物も誕生時から、生命のシステムの中に、“死”が

  確約されているという事実には、本来何物にも逆らうことはできないとされてきたが、今人類はこのタブーを破って飽くなき挑戦を続けています。

  注:クローンとは「遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)」を指し、体細胞クローンは無性生殖で発生します。無性生殖とは雌雄両性が関与しない生命の誕生を言います。

  これに対して有性生殖は受け継ぐ遺伝子には偶然性がありますが、無性生殖は受精の段階がない為、新しく生まれる生命は親と全く同じ遺伝子を持つ為に、生まれ出た

  生命は全て同じものとなります。

  ✲サーツー遺伝子

  1991年、米国の大学でサーツー遺伝子が単細胞の酵母から発見された。酵母菌からサーツー遺伝子を取り除くと、酵母菌が死んでしまい、逆に増やすことによって、酵母菌が
  
  長生きすることがわかりました。つまり、このサーツー遺伝子こそが、長寿遺伝子であることを突き止めたのです。酵母菌を選んだ理由は、単細胞であり、遺伝子も5000個と
  
  少ないので、長寿遺伝子があるかないか見極めやすいからというものでした。その後、長さ1mmの線虫でもサーツーが寿命を延ばすうえでかかわりがあることが証明された。
  
  この遺伝子は老化を遅らせるものであり、次のような役割がある。✀細胞を修復するたんぱく質の活性化。 ✀細胞の死(アポトーシス)の抑制。加齢とyともにアポトーシス

  (あらかじめプログラムされた細胞の死)によって細胞が減っていきます。とくに再生しない脳や心臓では重大問題です。 生命維持に必要なエネルギー量の調整✀

  哺乳類のマウスにもサーツー遺伝子があることが分かり、現在においても様々な実験が行われている。サーツー遺伝子は生物の長い進化の過程で、老化そのものを調節し、

  つかさどるために選ばれた特別な遺伝子だと言えるようです。21世紀現在、人間の体の中にもサーツー遺伝子と同じ働きを持つ遺伝子があることが分かっています。
  
  老化を防ぎ、長寿に貢献すると考えられている個の遺伝子に関する今後の成果が待たれるところです。