健康を食い物にするメディアたち

 はじめに 私達は、騙されている  クロを切り捨て
グレーを探る
 それでも私達は
「医療デマ」に巻き込まれる
 健康になりたい人と
それを騙す人
 ネット時代の
医療情報との付き合い方
 ネットメディアと既存メデイア
分かれた明暗
おわりに 
 

 ◎はじめに:私達は、騙されている

 騙されている人というのは、多くの場合、自分が騙されていることに気ずいていないものです。健康や医療といったテーマの周りには、嘘や不正確な情報、そして「医療デマ」が蔓延

 しています。私は、医僚についての報道を仕事とする、医療記者です。この仕事を始めてびっくりしたのは、世の中には沢山の「健康になりたい人」がいること、そして、それにも増し

 て、健康になりたい人を「騙す人」がいることです。唯の水を、「病気を治す水」などと謳って高値で売りつけるといった類の詐欺があることは、私も知っているつもりでした。しかし、今

 や、その手口は複雑になり、その数が驚くほど増えているのです。誰もが知るような企業が、書店やアマゾンに並ぶ本が、信頼できるはずの新聞やTVが、ツイッターで爆発的にシェ

 アされたツイートが、健康や医療についての嘘や不正確な情報を発信しています。今の世の中、「医療デマだらけ」といってもいいほどです。騙す人の手口が多様化したことで、情報

 の真偽が非常に分かりにくくなっています。その背景にあるのが、「ネット時代」の到来です。これほどまでにネットが発展、普及したことにより、産業構造は大きく変化し、テクノロジ

 ーはますます進歩していきました。その結果、古くからある医療デマは様々に形を変え、勢いを増し、新たな医療デマとなって世の中に広がっているのです。このような状況に対応

 するには、「ネット時代の医療情報との付き合い方」を今一度、考え直す必要があります。そうしないと、いつの間にかどんどん騙されてしまう、ということになりかねません。私は、そ

 うなることを防ぐために、日々取材を重ねています。TVや新聞、書籍や雑誌、ネットの情報に改めて目を向けて見ましょう。すると、健康や医療についての情報を、やたらと取り上げ

 いることが分かります。どうすればダイエットできるのか、良く眠れるか、癌や認知症を防げるか・・・。扱い方に差はあれど、このようなテーマが、手を替え品を替え、繰り返されてい

 ます。どうしてなのでしょうか。理由はシンプルで、「健康」が万人の関心事だから。正治や経済、スポーツ、エンタメなどのジャンルとは異なり、人を選びません。皆が知りたいテーマ

 だから、それに関する情報が生み出される。これも当然のことです。ところが、健康や医療というのは、様々な原因で、嘘や不正確な情報が発生しやすい分野。しかも、「健康になり

 たい」という想いは、人間に取って本来的で、とても切実なものなので、人はどんな情報でも信じ込みやすくなっています。いつもか慎重な人でも、この分野に関しては、コロッと騙さ

 れてしまうことがあります。健康になりたいあまり医療情報を強く求め、それゆえ却って騙されやすくなる。医療デマの蔓延には、そんな背景もあります。

 ✱医療デマは命に関わる 医療情報の真偽を見分けられるようにならなければ、私達は自分や自分の大事な人を守れません。しかも、健康や医療についての嘘や不正確な情報

 特に、深刻な医療デマは、命に関わる危険なものとなり得ます。最も深刻な例の一つは「癌放置理論」です。この理論は、現在、医療の主流である手術・抗癌剤・放射線を基本とし

 た「標準治療」を否定するものになっています。病気の時期や状態によって千差万別の癌をひとくくりにして「手術は命を縮めるだけ」「抗癌剤は毒」などと主張する癌放置理論は、

 これまで沢山の専門家から批判されています。それにも拘らず、この主張を信じてしまう患者さんは後を絶ちません。早期に発見・治療ができたはずの癌が、放置することで、やが

 て進行癌になることもあります。そうなってしまうと、標準治療を望んだところで最早手の施しようがなく、命を落としてしまうことになります。ワクチンの全否定、いわゆる「反ワクチン」

 も、深刻な例の一つです。ワクチンや風疹、B型肝炎、季節性インフルエンザなどの病気について、予防や症状を軽減する効果があることは確実です。しかし、これを接種しようとし

 ない人、更には、他の人の接種を妨げようとする人がいます。ワクチンは感染症、つまり、人から人にうつる病気に対して効果的です。国がワクチンを打つことを努力義務にするこ

 とがあるのは、個人の病気の予防や症状の軽減という目的もありますが、多くの人がワクチンを打つことによって、社会全体として、その病気にかかる人をなるべく少なくするため

 でもあります。逆に言えば、接種が推奨されているワクチンを打たないという選択や、打たせないという行為は、誰かの命を危機に晒すことにつながるのです。この書を取った方の

 多くは、「自分は医療デマに騙されない」と思っているかもしれません。仮にそうだとしても、貴方の両親はどうでしょうか。貴方の子供は、友人は、会社の同僚は、隣人はどうでしょう

 か。貴方が騙されていないとしても、健康や医療についての嘘や不正確な情報が生活に入り込み、貴方の周りの人が騙されてしまうと、貴方の生活にも影響がでてきます。、又、

 自分自身がいつまでも騙されない人であるという保証もありません。自分が癌になり「もう治らない」と分かった時、それを受け止めきれず、「癌放置理論」に傾倒することがあるかも

 しれません。自分の子供がワクチンを打った後、何か悪い反応が出てしまったら、「反ワクチン」運動に救いを求めるかもしれません。騙される人と騙されない人との境界線は、限り

 なく曖昧で、グラデーションのようになっています。かく言う私も、最近、趣味のスポーツの最中に、自分が騙されていることに気がついてしまいました。学生時代から10年以上、運動

 する時になんとなく選んで飲んでいる「体脂肪を燃焼させる」と謳うスポーツドリンク。「これって根拠があるのだろうか?」とふと疑問に思ったのがきっかけです。調べて見ると、なんと

 それは、マウスに対して効果があったというデータしかなく、人に対しての効果が証明されたものではありませんでした。ショックでありましたが、同時に反省もしました。正直なところ

 私は「自分は騙されにくいほうだ」と思っていました。しかし、お気に入りの商品については、そもそも疑うことすらせずに信じ込んでいたいたのです。こうした、特段有害といえないよ

 うな、根拠のない広告も含めるのであれば、健康や医療についての嘘や不正確な情報に騙されていない人なんて、いないのではないでしょうか。だからこそ、、明らかに有害な、

 いわば正真正銘の医療デマに騙されている人をバカにすことは、誰にも出来ません。ふとした瞬間に境界線を越え、自分が騙される人になる可能性は常にあります。