ケトン食が癌を消す

   プロローグ

  「免疫栄養ケトン食」とは、臨床栄養学に基ずいて作り上げ、2015年の臨床研究の成果をもって本格的にスタートさせた、癌治療に特化した栄養療法です。2014年、抗癌剤効果が

  期待できなくなったステージWの乳癌の患者さんに、炭水化物の摂取を極端に控えた糖質制限食を指導したところ、まもなく3cm大の腫瘍がほぼ消失。肺転移と皮膚転移の一部

  も消失し、QOLが大きく改善されたことが、この「免疫栄養ケトン食」を癌治療の支持的療法として本格化させるきっかけになっています。詳細は後章に譲りますが、化学療法と併

  用して「免疫栄養ケトン食」を実施してきた患者さんは、2016年3月現在、22人に上ります(すでに重篤な末期だった1人がまもなく死亡、1人が効果がなく死亡、1人が早期に中止し

  て、実質的には19人)。このうち、免疫栄養ケトン食の3ヶ月以上の実施者は、前記の乳癌患者さんを含めて18人。その治療成績を見ると、癌の完全寛解(CR)が5人、癌が30%以

  上消失した部分奏効(PR)が2人、癌の進行制御(SD)が8人にも上り、憎悪(PD)はわずか3人に過ぎません。完全寛解が部分奏功よりも多いのは、癌の顕著な縮小や転移巣の

  消失によって、手術に持ち込めた症例が多いためです。完全寛解率は約28%。完全寛解も含めた奏効率(癌が消失、もしくは縮小した患者さんの割合)は約39%。SDを加えた病勢

  コントロール率に至っては、実に83%にも上っています。しかも、実施者の多くは、ステージWの癌患者さんです。ステージWと言えば、原発巣以外に癌の遠隔転移があり、手術不

  能な癌の状態を指します。いわば、末期と呼ばれる状態で、この時点で医師の多くは「最早打つ手なし」と、治療の(さじ)を投げてしまいます。それを考えると、奏効率39%。病勢

  コントロール率83%と言う数字は、まさに驚異的であり、これまでの医学界の常識を覆したといっても過言ではないでしょう。そして、このことは癌治療における食事からのアプローチ、

  即ち「免疫栄養ケトン食」が、癌治療の支持的療法になりうる可能性を明確に示しているのです。私達人間が生きていくためには、炭水化物(糖質+食物繊維)、蛋白質、脂質とい

  う三大栄養素が、必要だと言われています。厚労省が作成した「日本人の食事摂取基準2015年版」には、例えば30才以上の成人男子(身体活動が「普通」レベル)に関する1日の

  推定必要エネルギーは2650kcal。そのエネルギーを得るために推奨する三大栄養素の摂取割合は、炭水化物50〜65%、蛋白質は13〜20%、脂質20〜30%と明記されています。

  炭水化物の割合が高いのは、その中に多く含まれる糖質が、脳や肉体の生命活動を維持するための主要なエネルギー源と考えられているからです。確かに、食事から摂取した

  糖質は、消化酵素の分解によってブドウ糖になった後、小腸から肝臓を経由して、すかさず全身の細胞にエネルギー源として運ばれます。そういう意味で、糖質が日常の生活に

  おいて重要な役割を担っていることは、否定することはできないでしょう。さて、ここで質問です。貴方が前記の「日本人の食事摂取基準」を遵守し、総エネルギーの60%を糖質でま

  かなっているとします。総エネルギーを維持した上で、蛋白質と脂質の割合を引き上げ、糖質を半分の30%以下にカットした場合、肉体にどんな変化が現れると、想像するでしょうか。

  多くの人が「スタミナが切れ、仕事に影響が出るかもしれない」と。少々不安な気持ちになるかもしれません。或いは、昨今の糖質制限ダイエットに精通してい人なら、「この程度の

  糖質カットが、心身の健康に最も良い」と考えるでしょう。この糖質量はちょうど、糖尿病医師が提唱する「ロカボ」、即ち穏やかな糖質制限食と合致し、糖尿病の予防・改善や健康

  維持に最適ではないかと、考えています。では、この「ロカボ」を更に制限し、糖質を全エネルギーの10%以下、それも0%へと可能な限り引き下げてみたらどうでしょうか。「冗談じゃ

  ない」という声が、聞こえてきそうです。「そんなに極端な糖質カットをしたら、頭の働きは鈍るし、第一体力が持つはずがない。これでは、仕事どころか、日常生活にも支障をきたす

  じゃないか」と、はたして、本当にそうでしょうか。実は、目下、癌治療の支持的療法として取り入れている「免疫栄養ケトン食」は、まさにこの極端な糖質制限を拠り所としているのです。

  もちろん、血液データその他を吟味しつつですが、中には「糖質95%カット」を実施している患者さんもいるほどです。全体で平均5%前後の体重の減少は認められるものの、実施者

  の多くにQOLの向上が見られる、糖質を制限した「免疫栄養ケトン食」が何らかの重篤な弊害を生むというデータは、今のところ存在しません。とはいえ、炭水化物は3大栄養素の

  中心に位置ずけられています。その炭水化物に代表される糖質の制限が、癌治療の土台になることを広く認知してもらうためには、臨床研究による症例の提示が不可欠でした。

  そこで、2014年の夏、この糖質制限食を癌治療の支持的療法とすべく、勤務する公社病院の臨床研究倫理審査委員会に臨床研究の承諾を求めました。それも、臨床の対象は

  ステージWの患者さんです。敢えて、そのステージWの患者さんを臨床の対象としたのも、長年の研究での試行錯誤の結果、糖質制限を基盤とした癌治療が、癌を根治へと導く

  上で極めて有効であるという確信を得たからに他なりません。しかし、医療界は常に、未知の試みに対して懐疑的な姿勢をとるものです。まず、この臨床にいち早く猛反対してきた

  のが、同僚の医師たちでした。「糖質を制限すると、健常人でも体力が持たない.体力の落ちに患者さんにそんなことをやらせたら危険だし、ましてや患者さんにケトン食なんか出

  させたら、それこそ命取りになってしまうぞ」と言うわけです。この「ケトン体」については後述しますが、もちろん、ただ闇雲に糖質制限食を指導するつもりはありませんでした。ちょ

  うど巷では糖質制限によるダイエットや健康法が、ぶーむになりかけていました。その火付け役の1人となったノンフィクション作家の桐山秀樹さんは、糖質制限で糖尿病を克服し

  ただけでなく、2週間で20kgものダイエットに成功したと自ら語っています。彼の代表作「親父ダイエット部の奇跡」という本のオビには、「炭水化物を抜くだけ!」と言うコピーが書かれている。