癌政策&食習慣と癌

 

 

 

 

 

  25年以上も前から日本人の死因第1位である癌。癌は病気自体が、その発生臓器、悪性度、進展度等により実に多彩で、患者も多様である。

  癌は正常細胞のDNAに載っている癌遺伝子が遺伝子突然変異の結果暴れだしたり、癌抑制遺伝子が壊れてしまう。あるいはその組み合わせによって、つまり癌遺伝子、

  癌抑制因子などにみられる遺伝子異常が多段階に積み重なった結果、正常細胞が癌細胞に変わる。さらに癌細胞は無限に増殖を繰り返し、やがて浸潤や転移を起こし、

  その個体に死をもたらす。遺伝子異常を引き起こす原因は生活習慣、生活環境が関係し、とりわけタバコ、食事、感染症は重要である。

  癌は発生と進展に長い時間を要する慢性の病気であり、潜伏期間は20〜30年と考えられ、一般には高齢者に多い。現在約60万人/年が癌になり、33万人が亡くなっている。

  男性の2人に1人、女性の3人に1人が、1生のうち何らかの癌になると考えられている。癌での死亡数が多い部位順位は男性 肺→胃→肝臓→結腸→膵臓の順、

  女性は胃→肺→結腸→肝臓→乳房の順で男女計では肺→胃→肝臓→結腸→膵臓となっている。結腸と直腸を合わせた大腸は3位にある。

  癌の一次予防にはタバコ対策、食生活と運動、感染症対策が重要であるが、最も強力であるべきタバコ対策は不徹底で男性44%、女性15%の喫煙率は先進国の2倍。

  感染症対策ではC型肝炎ウイルスと肝がん、ヒトパピローマ・ウイルスと子宮頚がん、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染と胃がんが重要である。

  癌の二次予防には検診による癌の発見と治療が行政の対象となっているが市町村が実施している癌検診の受診率は平均17%と極めて低い。また我が国の癌医療

  には地域間格差、医療機関格差及び専門家の数不足が大きな問題である。国のがん対策推進基本計画で死亡率の減少、療養生活の維持向上を目指している。

                                                                     

    ✲WHO/FAOによる癌予防のための食事ガイドライン(2007)

   1.肥満について:正常な体重の範囲でできるだけ痩せる

       2.身体活動について:日常生活の中で活動的になる

   3.体重を増やす飲食物について:高エネルギー食品や甘い飲物を制限する

   4.植物性の食事について:植物からできた食品を中心にとる

   5.動物性の食事について:赤身肉(牛、豚、羊などの肉)を制限し、加工肉(ソーセージ、サラミ、ベーコン、ハムなど)を避ける

   6.アルコール飲料について:お酒を制限する

   7.保存・加工・調理について:塩を制限し、カビの生えた穀物や豆類を避ける

   8.サプリメントについて:食事だけで必要な栄養がとれるようにする

                           

  ✢世界癌研究による食習慣関連要因と癌との関係

関連の強さ リスクを下げるもの リスクを上げるもの
確実 ✨運動(結腸)

✋授乳(乳房)

 

✋肥満(大腸、乳房(閉経後)、子宮体部、腎臓、膵臓)

✋内臓脂肪(大腸)

✋高身長(大腸、乳房(閉経後)

❌赤身肉・保存肉(大腸)

✋アルコール(口腔・咽頭・喉頭、食道、大腸(男)、乳房)

✨アフラトキシン(肝臓)

✨飲料水中の砒素(肺)

✨β−カロテンのサプリメント(肺)

おそらく確実 ・肥満(閉経前乳癌)

・運動(閉経後乳がん、子宮体部)

・果物(口腔・咽頭・喉頭、食道、胃、肺)

・非でんぷん野菜(口腔・咽頭・喉頭、食道、胃)

・アリウム(ネギ属)野菜(胃)

⧣にんにく(大腸)

⧴食物繊維(大腸)

⧤牛乳(大腸)

⧲食物に含まれる葉酸(すい臓)

・食物に含まれるカロテノイド(口腔・咽頭・喉頭、肺)

⧲食物に含まれるβ−カロテン(食道)

・食物に含まれるビタミンC(食道)

・食物に含まれるリコピン(前立腺)

・食物に含まれるセレン(前立腺)

・カルシウムのサプリメント(大腸)

・セレ二ウムのサプリメント(前立腺)

・肥満(胆嚢)

・内臓脂肪{膵臓、渋さ(閉経後)、子宮体部}

・成人期の体重増加{乳房(閉経後)}

・出生時過体重(閉経前乳癌)

・高身長{膵臓、乳房(閉経前)、卵巣}

・アルコール{肝臓、大腸(女)}

・塩蔵食品・塩分(胃)

・塩蔵魚(鼻咽頭)

・飲料水中の砒素(皮膚)

・マテ茶(食道)

・食事からのカルシウム(前立腺)

                             

  ✥食習慣関連要因と癌との関係(日本)

  全癌 肺癌 肝癌 胃癌 大腸癌 結腸 直腸 乳癌 閉経前 閉経後 食道癌 膵癌 前立腺癌
飲酒 A D A D A A A D     A D D
野菜 D D D C2 D     D         D
果物 D C2 D C2 D     D         D
緑茶 D     D       D          
コーヒー     B2   C2 C2 D            
大豆   D D         C2         C2
脂肪・ 肉類         D     D          
加工肉         C1                
        D                
塩・塩蔵品       B1                  
乳製品         D D D D          
BMI D D D D B1       D A     D
運動 D D     B2 B2 D D          

A:確実          ⇡

B1:ほぼ確実 ⇡

B2:ほぼ確実 ⇣

C1:可能性あり ⇡

C2:可能性あり ⇣

D:データ不十分  

                                                                                                   

  ✥現状において日本人に推奨できる癌予防法

   ✧適度な飲酒。具体的には1日当たりエタノール量に換算して約23g以内。 飲まない人、飲めない人は無理に飲まない。

   ✧食事は偏らずバランスよく。塩蔵食品・食塩の摂取は最小限。1日10g未満、塩分濃度が10%程度の高塩分食品は、週に1回以内。

   ✧野菜・果物不足にならない。例えば野菜は毎食、果物は毎日食べて、少なくとも1日400gとる。熱い飲食物、保存・加工肉の摂取は控えめに。

   ✧定期的な運動の継続。例えば、ほぼ毎日合計60分程度の歩行などの適度な運動、週に1回程度は汗をかくような運動。

   ✧成人期での体重を維持。具体的には中年男性のBMIで27を越さない、21を下回らない。中年女性では25を超さない、19を下回らない。

  注意:エビデンスから追及すると、答えは必ずしも1つとは限りません。実際には人の数だけ答えがあるが、統計学でまとめて全体の傾向を見て結果を出します。  

     エビデンスが理論通りに導かれないこともしばしばです。例えば、野菜には抗酸化作用や食物繊維があるので、野菜をたくさん食べると大腸がんが予防できるだろう、

     という理論的な筋道は正しそうです。しかし、実際に野菜をたくさん食べる人と少ししか食べない人で、大腸癌の発生率を比べてみても、はっきりとした差は出ません。

     ですから理論は理論として、「野菜を良く食べるほど大腸癌になりにくい」という記述には科学的根拠が乏しいと言わざるを得ません。科学的記述は不変という印象が

     あるが、1つひとつのエビデンスは生活の舞台、すなわち地域や時代によって変わる方がむしろ自然です。最終的には、原因と病気との関係を示すどのレベルの

     エビデンスがいくつ示され、その違いがどのようなメカニズムで説命出来るかが、科学的根拠の鍵になります。科学的根拠の判定には、1つひとつの判断材料となる

     エビデンスを積み上げ、理論的な裏打ちと合わせて総合的に評価し、研究から予防への橋渡しをする作業が欠かせません。現場で癌予防を実践する場合には、

     様々な情報を冷静に受け止めて判断し、さらに1人ひとりの背景を踏まえたうえで適切に伝えることが大切です。