病気の9割は自分で治せる


  ●医者が避けるのは「命を救う仕事」

  今の医者の卵達がどんな医者になりたいのかを知ることは、今後の日本の医療の行く末を占う上で、非常に重要な手掛かりとなります。2004年に新臨床研修制度が

  スタートしました。この新しい臨床研修制度は、今まで各大学が主導でやっていた卒後研修とは異なり、厚労省の一括管理の下、内科、外科、小児科などを回る2年間の

  臨床研修を必修化したものです。そして2006年、2年間の新研修制度を終えたはじめての医者の卵達の、その動向に注目が集まりました。注目したいのは、

  研修前に希望した診療科と、研修後に実際に希望した診療科の比率を表す、研修後の診療科別の増減率です。最も減少率が大きかったのは、脳神経外科(42%減)、

  次いで外科(33%減)、小児科(28%減)と続きました。一方、逆に増えたのは、形成外科(41%増)、皮膚科(24%増)、麻酔科(23%増)などでした。

  調査担当者は「仕事がきつく、しかも生命に直接かかわる診療科への希望が減っている」と結んでいました。脳神経外科などは直接、命にかかわります。一方、形成外科

  などは美容整形をはじめとして命のやり取りに直面する場面は殆どありません。誰しも報われる度合いが同じであれば楽な方がいいに決まっています。

  他の、いろいろなアンケート結果でも、年齢を問わず、共通して挙げられるのは、できるだけ「当直は避けたい」「緊急業務は避けたい」「命にかかわることは避けたい」

  「訴訟リスクは避けたい」、そして「拘束時間は短い方がいい」「報酬が多いほうがいい」というものです。医者の卵達が研修後に嫌った脳神経外科をはじめとして、

  心臓外科や救急外科など外科系の仕事は激烈を極めるので、若いうちならまだしも、ずっと続けるには確かに大変な仕事かも知れません。また、産婦人科や小児科は

  緊急業務も多ければ、訴訟リスクも非常に高い診療科ですので、心労も少なくありません。そのせいもあり、30代も後半になれば、勤務医を止めて内科などで開業する

  ケースが多いのも現状です。こういう医者を“転科組”と言うのですが、街中で「内科、外科」「内科、脳神経外科」「内科、産婦人科」「内科、小児科」などという看板を

  見かけるかと思いますが、それぞれ、もともとは外科医、脳神経外科医、産婦人科医、小児科医だったと想像できます。ただ、専門分野だけを掲げて開業しても、

  当然なこととして採算が取れるほど患者は集まりません。従って出来るだけポピュラーな科として内科を掲げている場合が少なくないのです。

  それだけ、専門医を止めた転科組が多いということを示しています。一方、逆に人気があるのは、皮膚科、形成外科、眼科、精神科などです。原則的に緊急性もなく、

  比較的自由に時間を使うことができるし、あまり命にかかわることもないというので人気があるようです。この傾向は米国でもほぼ同じで、やはり皮膚科、精神科が

  希望のランク上位を占めています。このことは訴訟王国である米国の事情を端的に反映しているのでしょう。もっとも、米国では昨今、あまりにも医療訴訟が多すぎて、

  医師への希望者そのものが減る傾向にあるようです。命がけで命を救うことは、まさに命がけなのです。日本も早晩、命をかけて命を救おうという医者はいなくなって

  しまうのではないかと、皆さんも心配されると思いますが、医者そのものがヒューマニズムの心を失ってしまったということでは決してありません。言い訳がましく聞こえるが、

  命をかけて命を救うに見合う環境整備が日本にはないというのも理由の1つですが、それは金銭的なことだけに限らず、医療訴訟をめぐる問題や、年齢を経てからの

  リクルートシステムが整備されていないなど、様々な不備・不安、そして何よりも世の中の風潮そのものが、人道的救命精神を医者から遠ざけているようにも感じるのです。

  ●「勤務医」に疲れて「開業医」になる医者達

  あくまでも愚鈍に執拗に医者の仕事にやりがいを求めようという人は、今や残念ながらごく少数派と言えます。本来の医者はこうあるべきだという典型的な医者が

  激減の一途をたどっていくのは致し方ないのかもしれぬが、さびしい限りです。しかしながら、基礎医学は、純粋に真理を追求する醍醐味はさておき、カテゴリーVの

  疾患をカテゴリーUに引き戻す上においても、最重要な分野であり、もっともっと莫大な資金とエネルギーを投資するに値するものだと考えます。やはり基礎医学の分野も

  待遇の悪さが足かせになっているのだと思われるが、成り手が少ないのが現状です。命に関わる、いわゆるクリティカル(致命的)な分野に携わる人材が、急速な勢いで

  減少しているのは述べた通りだが、希望者そのものは決して少なくないのだが、多くの問題、過労死、医療裁判等々、多くの問題が踏み込むのを躊躇させているのでしょう。

  これらの問題は決して解決できない問題ではないと思うが、周りの多くの医師たちが開業に転科していきました。開業に踏み切った年齢は40〜55才位の幅ですが、

  共通しているのは“勤務医に疲れた”と言うのが大きな動機だという点です。また、勤務医から産業医や、生命保険会社の委託で診査する社医になる医者も多い。

  中には、健康診断などのアルバイトで生活をたてながら、フリーター医として、好きな趣味に生きる者もいます。もちろん、いろいろの選択があっていいと思うが、

  やはり命にかかわる疾患と向き合う医者が、もうすこし快適に、第一線に長くいられるような、環境を整えなければいけないはずです。今の医療機関の経営を巡る

  現状や政府の姿勢を見ていると、そのうち命を救ったり病気を根絶したりする、医者としての本来の姿勢を忘れてしまうのではないかと、心配されます。