病気の9割は自分で治せる

  ●医者のやりがい、医者の割り切り

  どんな仕事でもそうですが、それなりのやりがいがなければ、いずれはその仕事を続けることが耐えがたいストレスとなり、続けることが難しくなります。それは誰にでも

  共通していることだと言えます。そして、そのストレスが高じると、ストレスを和らげる代償として、割り切りが必要となります。1度、割り切ってしまうと、今までのやりがいに

  代って、お金儲けをはじめ新たな目的が頭をもたげてくるようになります。これも、誰にでも、そしてどんな職業においても、少なからず共通していることだと思います。

  バイク事故などで頭部を強打し、そのはずみで、頭蓋骨を裏打ちしている”硬膜の動脈が切れて、頭蓋骨と硬膜の間に血液が溜まる状態の急性硬膜外血腫の

  患者の手術に際し、動脈性の出血で、しかも頭蓋骨の内側ですので、急激に血の塊が大きくなって脳を圧迫することにより、みるみる意識が低下していくのが特徴です。

  救急車で運びこまれてくる頃にはかなり意識が低下していることが多く、家族にも絶望感が漂っています。直ちに緊急手術を施します。しかし、手術そのものは

  頭蓋骨を外して出血している部位の血を止め、血の塊を除く、いたって簡単な、初歩的な手術です。Ⅰ時間もあれば手術が全て完了します。ところが手術後、

  患者の意識は劇的に戻りますので、家族からはいたく感謝され、手術した医者は、まるで神様のような扱いを受けることになります。意識不明の患者を、

  一瞬で魔法のように劇的に意識を回復させるわけですから、最大級の感謝をされます。もちろん、非常にやりがいも感じます。急性硬膜外出血は、まさしくカテゴリーⅡに

  入る典型的なケースだと言えるでしょう。いくら患者自身に強固な自己治癒力があったとしても、そのままの状態では残念ながら死を待つしかありません。

  また、時を少しでも逸すると命にかかわってきます。よしんば救命できたとしても、高い確率で重篤な後遺症が残ります。救急搬送システムを含め、医師や看護師

  などの協働緊急対処の介入がなければ決して救明されることがない典型的な事例だと思います。医者がやりがいを感じる分野はこれに限らず、癌なども本来は

  医者がやりがいを覚えるカテゴリーⅡに入る典型的な疾患だと思います。マニュアル通りの治療法だけでは、再発したり転移したりした進行癌を治癒に導くことは

  なかなか難しいが、3大治療(手術、抗癌剤、放射線治療)にもさじ加減を加え、中医学の手法と取り入れるなどして、個々の患者に合った治療法を考えていくことで、

  治癒への可能性を高めることができます。このように、カテゴリーⅡに入る病態や疾患は、医者の本領を遺憾なく発揮できる格好の領域だと思います。さらに、医者が

  関わっても、関わらなくても治癒に至らない病気であるカテゴリーⅢに入る状態をカテゴリーⅡに変えていく仕事も、医者にとってはやりがいのあるものです。

  例えば、癌の1部、”神経変性疾患、神経機能障害など、まだまだカテゴリーⅢに入る疾患が少なからず残ったままになっています。治癒が不可能な疾患を、

  自身の手で、治癒を可能にするというのは、まさに医者冥利に尽きるものです。ここで、医者の使命として、もう1つだけあげておきたい点は、的確は診断(トリアージ)

  を下すことです。要は、明確かつ正確に患者をカテゴリー分けすることです。もちろん、カテゴリーⅡに入る重大な疾患を見つけることが重要なのは、言うまでもないが、

  しかし、特に強調したいのは、医者にかからなくていい人をかからなくていいと断定することも、大切な仕事です。けれど、そのことが今は重要視されていない。

  このトリアージも、かなりやりがいのある、医者としての1つの大きな仕事だと考えられます。

  ❈硬膜・・・硬膜とは、脳と脊髄を覆う3層の膜(外側から硬膜、クモ膜、軟膜)のうち、1番外側のものを言う。硬膜は非常に熱く強靭な膜で、脳と脊髄を周りの

  組織から隔て、外傷や感染から守る役割を担っている。

  ❈神経変性疾患・・・原因が分からず、ある特定の神経細胞群が変性していって機能しなくなる病気。パーキンソン病やアルツハイマー病、脊髄小脳変性症などがある。

  ❈トリアージ・・・もともとはフランス語で「選り分ける」の意味。それが転じて、医療分野で、重症度によって患者を振り分ける意味に用いれれている。