病気の9割は薬なしで治る

  ●癌告知の日本的事情

  インフォームドコンセプトで、医者が最も気をつかうのは癌の告知と治療方針の決定です。検診技術が進歩した今では、様々な癌を早期に発見し、完全に治療することも

  可能になってきました。それでも、「癌」という病気に対する恐れはなかなか拭い去れません。不思議なもので、「もし貴方が癌になったら告知されたいですか?」と聞くと、
  
  大半の人が(隠さずに全て説明してほしい」と言うが、いざその人の家族が癌にかかった場合「本人には知らせないでほしい」と願う人が多いのです。やはりこれも、

  癌に対する恐怖が根強いせいだと思います。昔は、患者本人に癌は告知しないのが一般的でした。例えば胃癌の患者には、ご家族の方と相談して「胃潰瘍」というウソ

  の病名を告げ「手術して治しましょう」などと言っていたのです。しかし、患者がその病名に疑いを持ち、本などで知識を得ていろいろ質問されると、医者はその対応に

  苦労しました。1度ついたウソを貫き通すには、何度もウソを重ねたり、曖昧な表現でごまかさねばならないからです。本人はとうに気ずいているようだし、医者を信頼して

  治療に専念して貰う方がいいのではないか。そう医者が感じても、ご家族が「どうしても言わないでほしい」と願えば、それに従うしかありません。医者にとっては、これも

  辛いことです。本人への癌告知が大勢を占めるようになった現在では、医者はウソをつく心苦しさからは解放されました。しかし、やはり癌告知は状況を的確に判断して

  慎重に判断しなければなりません。今、1番普及しているのは、患者のご家族や親しい方に同席して貰って、病気の説明をすることです。ところが、これもクレームの

  元になったりします。「いきなり癌を宣告するから、本人はひどいショックを受けた」「患者の気持ちを踏みにじった」などとご家族から後で言われてしまうケースも多い

  のです。その為、最近では、まずご家族だけを呼び、病状と治療方針を説明したうえで、患者本人にどの程度告げるかどうか相談する医者も増えてきました。特に、

  患者のご家族が若い人の場合は、より慎重に事を運ばなければなりません。若い人は、ネットなどで医療に関する豊富な知識を持っている場合が多いからです。

  中には欧米の文献まで詳しく調べたり、日本ではごく限られた施設でしかできない様な治療情報をもとに、「この治療はできますか?」などと医者に言う人もいます。

  ここまで先回りされると医者も言葉を失いますが、熱心に医療情報を収集する患者やご家族が増えるのは、好ましいことでもあります。かっては一般の人に分かる

  様に言葉を探しながらしていた説明が、多少の専門用語も交えてドライに進められれば、医者はうれしいのです。医学がどんなに進歩しても、医療は人間が行う行為

  ですから、医者が熱意をもって患者に接すれば、お互いの信頼感を深めることにも繋がります。但し、貴方がどんなに信頼しているお医者さんがいても、その人は立場上

  心のどこかで「保身」を考えたもの言いをしている、ということだけは忘れないでください。

  ●医者と患者は友達になれるか?

  「医者と弁護士を生涯の友に持て」西洋にこんな格言があります。日本でも、この格言自体は割合知られているようですが、果たして実際にこれが人生のプラスになる

  でしょうか。弁護士の友人は、いれば便利だと思います。小さなトラブルなら友人として的確なアドバイスをしてくれるかもしれないし、正式な仕事を依頼した場合には

  費用を安くしてくれる可能性もあるでしょう。一方医者の友人は、弁護士の友人ほど必要性がない様な気がします。例えば学生時代の友人がたまたま医者になっていた

  としたら、自分や家族の病気について相談できるかもしれません。しかし、今の医療は専門分野が細かく分かれているので、友人である医者が直接治療してくれるとは

  限りません。例えば胃の調子が悪くなった時、親友が消化器専門医ならいいが、こうした恵まれたケースはそう多くないと思います。医者の友人を持つメリットは、治療が

  難しい病気になった時、信頼できる医者を紹介して貰えるかもしれない、というぐらいです。ところで、病院で知り合った医者と患者は親友になれるでしょうか?そういう

  ケースは、きわめて稀だと思います。ホームドクターと呼ばれる町医者にしても、患者とは「町内の知人」でも、ましてや「友人」でもなく、「医者」として一定の距離を保ち

  ながら付き合っています。要するに医者とは、必要な時だけ自分のところへやってくる不特定多数の人に、医療知識と技術を提供するのが役割です。ここが車のセール

  スマンなど、顧客と日頃から付き合うことが業績に結び付く仕事とは違います。極端なことを言えば、医者とは散髪屋さんに似た職業ではないかと思います。必要が生じ

  た時だけ行くところです。もちろん大病を治してもらった医者を恩人と思って感謝の念を抱いている人は沢山いることでしょう。しかし、今でもその先生にお歳暮を贈ったり、

  病院以外で会うような付き合いをしている人は一人もいません。一方、開業医も「大勢の患者の病気を治して、さぞ地元の人から感謝されるでしょうね」と聞くと、「いやあ、

  そうでもない、感謝されるのは病気が治ったその時だけで、普段の付き合いはない」とのことです。しかし、これでいいのではないでしょうか。医者と患者の関係は、あくまで

  「病気」や「怪我」を仲立ちした一過性の関係。両者がそう割り切って、出会った時だけの信頼関係が結べれば良しと思います。

  ●知って安心、医者の経歴   

  開業医の医者によると、最近の患者は医者の経歴を非常に知りたがるそうです。「先生は何処の医大で勉強しのですか?」相手の人間性や医療技術そのものではなく、

  まずはその人の経歴や肩書を知りたい、という心情は日本人独特のものかもしれません。本来、出身校も以前の勤務先も、医者の腕には何ら関係ありません。東大の

  医学部を卒業したからと言って、それだけで先端医療に通じているわけでも、医者としての資質に優れているわけではないのです。もちろん、東大に合格する為には

  過酷な受験競争を勝ち抜く頭脳が必要ですが、頭脳明晰な人が有能な医者になれるという証明もなされていません。こんなことは誰でも分かることだが、それでも、

  「知りたい」患者が多いのです。医者は、自分の身体を診てもらう大事な存在ですから、どんな医大を出て、何の科目が本当は得意なのかの情報を得たいと思うのは

  当然かもしれないが、有名大学の出身だけで患者は安心するのです。ならば、できるだけ患者を安心させる個人情報を提供したいと医者だって考えます。