病気の9割は薬なしで治る

  ●インフォームド・コンセプトという名の「保身」

  インフォームドコンセプトについては最初に振れたが、大事なことなので、もう少し触れておきます。インフォームドコンセプトとは、診断結果や治療方針について医師は

  丁寧に説明し、患者はそれを十分納得したうえで決定しましょう、という意味で使われる言葉です。インフォームドコンセプトの考えは、1970年代にアメリカから広がり、
 
  アメリカは医療の先進国という一面もあるが、日本のように皆保険制度ではないため、高度な医療が受けられるのは富裕層に限られる等、様々な医療トラブルも抱えて

  います。そのひとつが医療訴訟の多さです。何かにつけて不都合なことがあるとすぐに訴訟問題に発展するアメリカでは、医療に関する訴訟の数も非常に多く、インフォームド

  コンセプトはその対策として誕生しました。「私達は治療における危険性についても十分な説明をしたし、それに同意したのは貴方ご自身でしょう」。万が一訴訟を起こさ

  れた場合、こう言って病院側や治療に関わったスタッフの立場を有利にする為のものなのです。アメリカで起こることは数年後に必ず日本でも起こります。医療訴訟件数

  もアメリカほどではないが、年々増えてきました。そこで日本でも1990年代の初めから、アメリカにならって「インフォームドコンセプトを徹底しよう」という動きが活発に

  なってきたのです。実際、日本の医療現場はだいぶ変わりました。一般にもインフォームドコンセプトという言葉が知られるようになり、医者側には分かりやすく説明する

  「サービス精神」が求められるようになったからです。「この頃のお医者さんは、患者のことをよく考えてくれるようになった」「丁寧に説明して貰って安心した」インフォムド

  コンセプトが浸透してきて、患者からこうした声も聞こえてきました。しかし、丁寧に、なおかつにこやかに説明してくれる医者が、患者本位の医療を行う親切な医者だとは

  限りません。例えばいくつかの治療方法が可能な病気の場合、その全てを丁寧に説明していたら、診療時間が足りなくなってしまいます。そこで大抵の医者は、自分が

  いいと思う治療方針を説明し、患者の同意を得ようとするのです。「分かりました。その治療法でお願いします」医者が望んでいるのは、患者のこうした言葉です。つまり、

  日本のインフォームドコンセプトもアメリカと事情は全く同じ。もし治療の結果が思わしくなかったら、「この治療に関しては、あなたが同意したから行ったのですよ」と

  患者に責任を転嫁する意味もたっぷり含まれているのです。最近、病院で処方された薬を渡す時、この薬の種類や効き目、副作用についての説明書きをつける施設が

  多くなっているが、これも100%の親切心からではありません。副作用が出た時に、「そのことは薬の説明書きに書いてあったでしょう」と言い分け出来る様な仕組みに

  したのです。こう書くと、医者や医療施設は「保身」にかなりの重点を置いているように思われるかもしれません。実はその通りです。最近は、ますます「保身」対策が

  進んでいます。しかし、そうせざるを得ない事情もあるのです。次にそれを説明します。

  ●2重人格も名医の条件?

  モンスター・ペイシエントという言葉があります。直訳すれば「怪物患者」。些細なことで医者や医療機関にクレームをつける患者のことです。同じ様な意味でモンスター

  ペアレンツという言葉があるが、これは聞いたことがあるかもしれません。モンスターペアレンツとは自分の子供が通っている教育機関や担当教員にやたらと文句を言う

  親達。それもまっとうな意見などではなく、自分の子供を特別にひいきしてほしいが為にいちいち難癖をつける親のこと。つまり、完全に自己中心的なクレーマーです。

  因みに、モンスターペアレンツは和製英語で、アメリカではヘリコプターペアレンツと名ずけられています。子供が通う学校の上空を常に旋回しているかのように、なにか

  あるとすぐに着陸して学校に乗り込んでくる。という意味でこの名がついたそうで、アメリカでは今やこうした親が蔓延していると言われています。その日本版がモンスター

  ペアレンツ、そして学校ではなくクレームが医療機関に向かう人々がモンスターペイシェントというわけです。「予約をしたのに1時間以上待たされた」「あの医者は私の

  話をまともに聞かず、コンピューターの電子カルテだけを見ていた」「簡単な検査と言われたのに、痛みや苦痛を感じた」「2週間程度で痛みが治まると言われたが、3週間

  経っても一向によくならない」などなど、様々なクレームが医療現場に数多く寄せられるようになっています。にこやかに応対してくれる感じのいい先生が必ずしも名医で

  はないように、素直にうなずいてくれる患者が、全幅の信頼を医者に寄せているとは限りません。診察室ではおとなしかった患者が、モンスターに豹変するケースもあります。

  かくして医療従事者は、ますます保身の術を磨くのです。医者としては、患者の身体を診るとともに、その人の性格も探りながら相対する技術も必要になってきます。

  地域の人々からの信頼が経営に直接響く開業医には、とりわけこの技術が問われます。もしそれができない時は、とにかくその場だけは相手によく思われなければなり

  ません。そこで大きな武器になるのは、医者の腕でも薬でもなく、笑顔と優しいもの言いです。「この先生は感じがいいし、自分のことを大事に扱ってくれる気がする」

  患者にそう思わせるのも、クレーム社会の中で医療に携わる医者に取って「名医の条件」の一つなのです。「2重人格でないと、名医と呼ばれない」という医者もいます。