病気の9割は薬なしで治る

  ●「患者”様”に込められた本当の意味

  昔に比べて、医者と患者の関係は大きく変わりました。今の状況を1言で言うと、医者にとって患者は「お客様」。医者も診療報酬をいただく商売である以上、

  病院を訪れる人は大事なお客様である、という考え方が浸透してきたのです。40年前は患者のことを「クランケ」と呼んでいました。クランケとはドイツ語で「患者」と

  言う意味ですが、そのあとに「さん」をつけずに、呼び捨てでした。これがそのまま、昔の医者と患者さんの関係を表している。つまり、医者が上、患者が下、

  という暗黙の上下関係があったのです。しかし、1990年代になると「患者さん」と、さんずけをするのが一般的になりました。威張る医者は評判が悪くなり、

  医者と患者さんが対等に向き合うことが好ましい、と方針が変わったわけです。医者の方も患者さんの話にじっくり耳を傾けよう、医学的な説明をする時にも

  難しい専門用語はなるべく避けよう、という意識が強くなりました。これは素晴らしいことであり、また医者のあるべき姿だと思います。ところが、今はまたここから

  少し状況が変わってきました。2000年を迎える頃には、来院する人を「患者様」と呼ぶ医療機関が増えてきたのです。昔の関係が「お医者様と患者」だったとすれば、

  今は「医者と患者様」になり、両者の関係が逆転してしまったように感じます。しかし、「患者様」という呼び方が本当に患者さんを尊重し、大事にするために生まれた

  ものかといえば、そうではないのです。ここ数年、情報ネットワークがすさまじい勢いで発展し、病院に直接行く前に、膨大な医療情報がネットで得られるようになって

  きました。テレビや新聞などのメディアでも、医療関連の情報が頻繁に報道されています。こうしたことから、最近は一般の人も病気や医療、それに医療ミスといった

  事柄にとても詳しくなり、自分や家族たちが受ける医療に対する要求が高くなってきたのです。もし医者が少しでも横柄な態度をとったら、それだけで「ドクターハラスメント

  の被害を受けた」と吹聴される可能性すらあります。決してオーバーな話ではありません。ここ数年、医者は態度や診断技術、説明の仕方、治療法に至るまで、

  非常に厳しくなった患者さんの目に晒されています。ネット上に悪口を書かれたり、訴訟を起こされるケースも格段に増え、医者達は戦々恐々としているのが現実です。

  ここまで書けばお分かりかと思いますが、今多くの病院が「患者様」と呼ぶのは、「大事にしますから、どうぞ文句を言わないでください」という牽制の意味なのです。

  病院にかかる時は、患者に「様」がついたからといって、医療が100%患者さん主体のものになったのではないことを、頭に入れておいてほしいと思います。

  ●医者と患者の程よい関係

  「すばらしい医者でありたい」診察室や手術室、或いは入院病棟で患者とじかに接する医者なら、誰でもそう思っているはずです。もっとも「すばらしい」にも意味は沢山

  あります。「専門とする病気の治療において1人前になりたい」「外科手術の腕を極めたい」等など医者個人によって、或いは状況に応じて、それぞれの目標もあるでしょう。

  しかしそれとは別に、すべての医者に共通している思いがあるとすれば、それは「自分の患者にとって素晴らしい医者でありたい」もっとはっきり言えば

  「患者に好かれる医者になりたい!」と医者はみんな願っているのです。スムーズな人間関係を築き、患者の身体にも経済的にも負担をかけずに悪いところを治せれば、

  これほどいいことはありません。一方、患者はこう思っていることでしょう。「いい医者に巡り合いたい」「自分がかかるお医者に好かれたい」「特別な患者として、

  最高の治療をしてもらいたい」と。ということは、医者と患者はお互いの相手に「好かれたい」と思っているわけです。しかし、実際には。医者と患者が相思相愛とも言える

  幸せな関係になれるケースは、必ずしも多くありません。これにはいくつかの原因が考えられ、まず、医者側の問題として大きいのは、コミュニケーション能力の低さ。

  患者とどう接したらいいか分からない医者が、意外と大勢いるのです。医師免許は、医大か医学部のある大学に6年通い、国家試験に受かった人に授けられるが、

  5年生、6年生になると1〜2週間単位で病院の色々な科を回って実践的な研修を積みます。しかし、そこで患者との接し方について教えてくれる先輩はいません。

  学生も、病気の診断方法や診療方針を頭に入れることに必死です。本当はこの時、先輩の医者がどの程度患者の目を見て話すか、説明にはどういう言葉を使うか、

  患者は担当の医師にどんなことを求めているのか、といったことを観察していた方がずっと役に立ちます。何故なら、どんなに高度な知識を身につけても、患者に分かり

  やすくそれを説明し、患者から信頼されなければ、「素晴らしいお医者さん」とは思われないからです。ところが、患者への接し方については医学の教科書には

  載っていませんし、殆どの医学生は、そのトレーニングをする機会もないまま医者になってしまいます。それでも毎日患者に接していれば、コミュニケーション能力も

  自然と磨かれるはず、と思われるかもしれません。しかし、医者は免許を持っているだけで一生出来る仕事ではないのです。現役で患者と接している限り、目覚ましく

  進歩する医学や医療の勉強に日々追われます。するとやはり、患者との会話術を磨くのは、二の次三の次に成らざるをえません。片や患者の中には、何とか医者に

  好かれたいとの思いから、自分の親戚や知人に医者がいることや、テレビなどで得た知識を披露したがる人も案外多いのです。一般の人に分かりやすい説明をするのが

  苦手な医者と、自分をアッピールするために体調だけでなく多くの話を医者にしたがる患者が診察室で向き合っている場面─どう考えても良好な関係が築けるとは思えません。

  病状とは関係のない話を延々とする患者を目の前にすると、医師は唯右から左へと聞き流しながら、あいずちを打つしかないのです。これは極端ですが、これと似たような

  ことは少なからず医療現場で起きています。お互いに好かれたいと思っている医者と患者なのに、程よい距離を保つのはなかなか難しいものです。