高齢者の糖尿病
      

  近年、急速に増加している糖尿病患者とその予備軍。超高齢社会への進展とも相まって、糖尿病を患う高齢者の数も増えています。

  糖尿病は、インスリンという体の中で唯一血糖値を下げる作用を持つホルモンの作用不足で生じる代謝疾患です。インスリンは筋肉、肝臓或いは脂肪組織などへの

  ブドウ糖の取り込みとその代謝を促進します。また、脂肪やタンパク質の代謝にも深くかかわり、血糖値が高くなるばかりでなく、中性脂肪が高くなる或いはHDL

  コレステロールが低くなるといった脂質異常症や筋肉の減少といったたんぱく質代謝異常も生じることが多くなります。糖尿病は合併症の多い疾患として有名で、

  失明につながる糖尿病網膜症、人工透析につながる糖尿病性腎症、下肢の難治性潰瘍・壊疽えそや突然死につながる糖尿病性神経障害などの糖尿病性細小血管症

  、さらに狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性血管障害等の糖尿病大血管症などが多発します。これらの予防は国家的課題になっている。

    我が国の糖尿病及び予備軍の推定患者数の推移                                

  日本糖尿病学会の診断基準値(HbA1c値6.5%以上、境界型なし)とは異なる基準値

  (糖尿病が強く疑われる者:6.1%以上、糖尿病の可能性が否定できない者:5.6% ≻ 6.1%)を用いて

  判断した。糖尿病の診断は、通常、2回の血糖値或いは1回の血糖値及び1回のHbAic、或いは

  1回の糖負荷試験が必要とされる。国民健康・栄養調査では上記の手法を用いるので慎重な表現

  となっている。「糖尿病が強く疑われる者」の大半は糖尿病で「糖尿病の可能性が否定できない者」

  の大半は境界型とされています。左図から近年急速に増加する傾向が見られる。

 

 ✲年齢階層別糖尿病患者の頻度と推定患者数

年令

糖尿病

       男性    頻度%(推定患者数)

        女性       頻度%(推定患者数)

20〜29

0.0%(0万人)

0.0%(0万人)

30〜39

0.5%(5万人)

0.5%(4万人)

40〜49

4.8%(34万人)

2.2%(17万人)

50〜59

13.1%(109万人)

8.2%%(76万人)

60〜69

14.7%(114万人)

12.8%(108万人)

70〜

21.2%(174万人)

15.3%(179万人)

12.3%(436万人)

8.2%(384万人)

総計

9.8%(820万人)

  年令とともに糖尿病の頻度は、男女とも増加し60才以上での糖尿病の頻度は概略15%程度となります。

  高齢者の6人に1人が糖尿病ということになります。総数は1997年から2002年にかけて約50万人、2002年から

  2006年にかけて80万人増加している。一方、60才以上の糖尿病は同期間で365万人から477万人と約110万人、

  また2006年には575万人と100万人増加している。

  これらの数値から糖尿病増加の主体は高齢者糖尿病の増加であるといえる。その結果

  1997年では60才以上の糖尿病が全糖尿病に占める割合は53%(365/692万人)でしたが、2002年には64%

    (477/742万人)、さらに2006年には70%(575/820万人)を占めるに至っている。

  糖尿病の診療の主体は高齢者糖尿病となってきたのです。

 ✲高齢者糖尿病の特徴

                糖尿病                       ✧糖尿病に特有な口渇こうかつ、多飲などの高血糖症状が出にくい→高齢者では高血糖の割に尿糖の

                  ⇓                          排出が少なく脱水になりにくい、脱水になっても口渇中枢の脱水感知能力が低下しているため。

                高血糖  −−−−−−−−−−−−−↴       ✧高齢者では空腹時血糖値がそれほど高くないのに食後血糖値が高くなります→食後血糖を

              ⇙   ⇓    ⇘            ∣        代謝する筋肉(活動不足)や肝臓の組織量が老化のため減少し、かつ機能低下に陥るから。                          

脳梗塞  虚血性心疾患  網膜症   神経障害      ∣       ✧糖尿病性細小血管症の合併頻度が高い→高齢者糖尿病の40〜50%程度に糖尿病性網膜症、 

↓   閉塞性動脈硬化症 ↙  ⇓         ↓     ⇂−−−−↴     糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害の合併をみる。

↓−−−↓−−−−↓−− ↙視力障害 ↴  ⇙  ⇓  ⇘  ⇓    ⇓    ✧50歳を超す頃から動脈硬化性血管障害の合併頻度が高く、無症候性であることも少なくない。

誤嚥 認知機能 ADL低下 ⇔↓ うつ状態 便秘 尿失禁    感染症   →高齢者糖尿病の20〜30%程度に脳梗塞、虚血性心疾患を、5〜10%程度に閉塞性動脈硬化症

↑ᅵ   低下     ↑↘   ↓ ↗  ↑−−−⇡−−−⇡−↓      ↑     の合併をみる。老化という要素が加わると左図のごとく種々の老年症候群或いは生活機能障害

 ∣  ↳−−−−↓↥−−−−−ᅵ  転倒・骨折      ∣      褥創    ∣     を持つ例が多くなります。老年症候群とは単一の原因ではなく複合的な原因で生じる症候群

 ∣     低栄養   ᅵ   ↑          ∣       ↑      ∣     生活機能障害とは生活の自立を困難とする障害。老年症候群の多くが生活機能障害要因になる 

↑−−−−−−↑−−−−−↑−−老化  −−−−−−−↑−−−−−↑−−−↑             例えば認知症の発症頻度が非糖尿病の約2倍、高齢者糖尿病の1/4が認知症となる。                        

 注:ADL=生活活動動作能力