もっと知りたい! 食事と疾患の関係

 

                                                                                                     慢性腎不全と低蛋白食(1)

  慢性腎不全は不可逆的で、しかも進行性の疾患です。保存療法期にきちんとした治療が行われなければ、一般的にその進行は早く、

  透析への導入も早まります。慢性腎不全の進行を少しでも抑制し、透析導入を遅らせるために極めて有効なのが食事療法です。

  低蛋白食の有効性とその否定が歴史の中で繰り広げられ、現在、低蛋白食が臨床現場で十分に行われていない原因がここにあります。

  慢性腎不全における低蛋白食は、専門の医師と管理栄養士の十分な指導のもとに正しく実施されれば、驚くほどの治療効果を発揮します。

  慢性腎不全における低蛋白食の理論的根拠とその効果

  先ず効果は、腎機能障害の進行抑制、高窒素血症の抑制(尿毒症毒素の蓄積抑制)、代謝性アシドーシスの抑制、血清電解質異常

  の抑制、腎性貧血の抑制、自覚症状の改善、栄養状態の維持或いは改善、透析導入遅延効果などがあげられます。

 数ある治療効果のうち、中核をなすのが腎機能障害の進行抑制効果です。

  腎臓の糸球体には、限外ろ過を行う為に常に大量の血液が循環し、それにより、他の毛細血管と比較し約10倍もの血圧がかかっています。

  そこに、高血圧による糸球体の血圧上昇が加わると、メサンギウム細胞が増殖し、糸球体の硬化が起ります。これが腎機能障害

  (糸球体障害)の一つの機序であり、蛋白質の過剰摂取でも同様の機序で糸球体障害が起こります。

  慢性腎不全では、慢性糸球体腎炎や糖尿病などの原疾患によりもともとメサンギウム細胞の増殖や糸球体の硬化が起っていますので、

  そこへ蛋白質の過剰摂取が加わると、それが助長されるわけです。

  これに対し低蛋白食を行うと、蛋白質の過剰による糸球体障害が軽減され、腎機能障害の進行が抑制されると考えられています。

  その他にも、蛋白質の過剰摂取が腎機能障害の進行を促進する機序として次のような因子が明らかにされています

 糸球体血行動態に対する負荷   リン摂取量の増加   尿蛋白の増加   メサンギウムの増殖因子の産生亢進

 L-アルギニンの摂取   尿毒症毒素の蓄積   ネフロンの代謝亢進   アシドーシス

  蛋白質をどの程度制限すべきなのか

   0.5〜0.3g/kg/日(標準体重を50〜60kgとして30〜15g/日)に制限した場合にのみ、その効果が認められた。

  高窒素血症の抑制(尿毒症毒素の蓄積抑制)効果

  蛋白質がエネルギーとして代謝された場合、その代謝産物として尿素などの窒素成分が産生されます。これらは腎臓からしか

  排泄されない為、腎不全ではそれらが蓄積し高窒素血症を来たします。蛋白質の制限を行うと尿素など窒素成分の産生が減少し

  高窒素血症が改善されます。さらに、尿素窒素の蓄積は、様々な尿毒症毒素の蓄積をも示しているということです。

  慢性腎不全による食欲低下などの自覚症状には、尿毒症毒素が関与していると考えられおり、その上、腎機能障害の進行にも深くかかわって

  いることが明らかにされています。従って、高窒素血症を抑制することは、自覚症状の改善と腎機能障害進行抑制につながっている

  ということも知っておく必要があります。この高窒素血症抑制効果にに対する蛋白質制限量も0.5〜0.3g/kg/日で大きな効果があった。

  代謝性アシドーシスの改善効果

  腎臓は、体内で産生された酸を排泄することによって体液が酸性に傾くのを防ぎますが、慢性腎不全ではその機能も低下する為、

  体液が酸性に傾きます(代謝性アシドーシス)。この酸は、蛋白質の代謝産物であり、従って酸のおおもとである蛋白質を制限することで、

  酸の産生を抑制してアシドーシスを抑制します。この抑制に対する効果も、0.5〜0.3g/kg/日の蛋白質制限量が有効でした。

  血清電解質異常の改善効果

  @高カリウム血症の抑制効果  

  高カリウム血症は、腎からのカリウムの排泄障害と、代謝性アシドーシスによる、細胞内から細胞外へのカリウムイオンの移行などに

  よって起きる症状で、それが高度な場合、感覚異常や倦怠感、不整脈や心停止などの危険性が生じます。

  それに対し食事療法では、野菜などのゆでこぼしや、生の果物を禁止するなどのカリウム制限がよく行われていますが、

  最も強力なカリウム制限は低蛋白食です。何故なら、食品中のカリウムと蛋白質含有量は正の相関関係にあるためです。 

  蛋白質40gの献立のカリウム量は2g以上ですが、蛋白質制限を強化する事でカリウム制限も強化できます。従って、蛋白質制限が

  きちんと行われていれば、野菜のゆでこぼしや、生の果物を禁ずることなどは殆ど必要ありません。さらに低蛋白質食は、代謝性

  アシドーシスも抑制するため、それによる高カリウム血症の抑制にも効果があります。この抑制効果も0.5〜0.3g/kg/日の蛋白質制限でした。

  A高P(リン)血症、低Ca血症の抑制効果 

  高P血症は、腎からのPの排泄障害がその主な原因で、低Ca(カルシウム)血症はビタミンDの活性化障害によるCaの吸収障害が主な原因です。

  血漿中のPとCaは、生理的にP x Ca = 一定という関係にあるため、高P血症と低Ca血症は1つの代謝異常として捉えることが肝要です。

  従って、高P血症を是正することが低Ca血症の是正にもつながることを理解しておくことが大切です。

  高P血症に対してはPの制限が行われますが、食品中のPと蛋白質の含有量は、極めて強い正の相関関係にあるため、蛋白質の制限

  なしにPの制限は不可能です。一方、低Ca血症についても、蛋白質を制限することによってPを制限し、高P血症を是正することが

  食事療法の正しい考え方であり、食品でのCaの補給は全く意味がありません。高P血症と低Ca血症に対する有効蛋白質制限量は

  同じく0.5〜0.3g/kg/日でした。