もっと知りたい! 食事と疾患の関係

 

                                                                                                         慢性腎不全治療における栄養指導

      

     医学が飛躍的に進歩しているのに、透析が必要になるほど重症の

  末期腎不全患者が増え続けている。

                  透析療法導入患者の原疾患の割合

原疾患 1986年 1996年 2006年
糖尿病性腎症 21.3% 33.1% 42.9%
慢性糸球体腎炎 54.8% 38.9% 25.6%
腎硬化症 3.7% 6.4% 9.4%
多発性嚢胞腎 2.9 2.5% 2.4%

   慢性糸球体腎炎の割合は半減したのに対し慢性糸球体腎炎と

   腎硬化症が著しく増加している。

  これらの疾患は食事療法が治療の基本となるので、患者の自己管理と医師及び管理栄養士による栄養指導が適切に行われていれば、

  透析導入の回避のみならず、腎機能障害の進行を予防することさえ可能であった患者が大半を占めている。

  透析患者数を毎年確実に減少させるには、栄養士自身が低蛋白食の効果と重要性を正確に理解し、熱意を持って栄養指導することです。

             *慢性腎不全における食事療法の実際

  効果的蛋白質制限量(ガイドライン)

  慢性腎不全に対する食事療法はCcr70㎖/分以下の腎機能障害に対する、蛋白質摂取量は0.6g/kg/日以上、 0.7g/kg/日 未満に制限することを

  推奨している。殆どの医療施設では、どの患者にもこれを適用している。0.5g/kg/日以下で顕著な成果、0.6g/kg/日以上では効果なしの例もある。

  著明な臨床効果をあげるにはCcr30㎖/分以下で0.5g/kg/日以下、15Ccr15㎖/分以下まで低下した場合は0.3〜0.4g/kg/日の制限が適切である。

   Ccr50㎖/分であっても数年間腎機能低下を認めず、予後良好と思われる腎硬化症であれば0.8g/kg/日の緩い制限に留める場合もある。

   一方、糖尿病性腎症では慢性腎不全に至ってから蛋白質制限を適用しても長期的な効果は得られないので、腎機能が正常な早期腎症の段階から

    0.5g/kg/日以下の蛋白質制限を行っています。このように、患者の病態の変化や予後、臨床経過に合わせて柔軟な対応をとることが大切です。

  栄養士は医師の指示やガイドラインにやみくもに従うのではなく、積極的に医師と連携をとり、食事療法の効果を緻密に評価し、議論する

  ことにより、個々の患者に有効な蛋白質制限量を判断することが重要です。

  適正なエネルギー摂取量

  低蛋白食の実施にあったって最も重要な点は、制限された蛋白質を無駄に燃焼させないために、十分なエネルギーを摂取することです。

  蛋白質制限下ではエネルギー不足が必ずついて回ります。低蛋白食開始後に栄養障害に陥るケースの殆どはエネルギー不足が原因です。

  これを防ぐには、十分なエネルギー量として35kcal/kg/日必要とされている。しかし、個人差が大きく、また同一患者でも日常の活動量や

  栄養状態の変化に合わせて、きめ細かく柔軟にエネルギー指示量を変えなければならず、栄養士は摂取量を検討し続けねばなりません。

  蛋白質の質的配慮

  蛋白質は、制限量だけでなく、その質も重要です。動物性蛋白質の比率(動蛋比)を60%以上にすると、アミノ酸スコアはおおむね95以上と

  なり、蛋白質の質を良好に維持することが可能となるが、植物性食品の極度の制限は豆製品、野菜、果物の制限や使用食品数の

  減少につながり、ビタミンや微量元素の不足を招き、何より患者に苦痛を与え、食事療法の長期継続が困難となります。動蛋比70%が上限です。

  治療用特殊食品の重要性

  蛋白質を制限した上で十分なエネルギーを摂取し、かつ動蛋比を60%以上に上昇させる為には、低蛋白の治療用特殊食品の利用が絶対条件と

  なります。患者が通常食品のみで低蛋白食を実施した場合、著しいエネルギー不足に陥り、必ず栄養障害を招くので、極めて危険です。

  このことを正しく認識し、指導者自身が治療用特殊食品の必要性と扱い方を十分に理解したうえで患者に説明することが重要です。  

  また、患者が治療用特殊食品を嗜好に合わせて美味しく食べられるよう、献立、調理の工夫をきめ細かく指導し続けることも大切です。

  十分なエネルギーを毎日確実に摂取するには、毎食主食に治療用特殊食品を使用することが重要です。医療施設によって患者の治療用

  特殊食品の受け入れや使用状況が大きく異なるという事実が判明しているが、その背景には、指導者側の姿勢にも問題があると考えられる。

  例:蛋白質0.3g/kg/日の場合の治療用特殊食品によるエネルギー摂取状況

  2000±73kcal =   通常食品(40%)826±39kcal  + 治療用特殊食品(60%)1229±68kcal

                       治療用特殊食品 1229±68kcal = でんぷん製品(76%)931±92kcal  + その他の治療用特殊食品(24%)298±25kcal

  栄養素摂取量及び食事内容の把握

  多くの栄養素のうち、蛋白質と食塩の摂取量は24時間蓄尿により正確に算出できます。それ故、蓄尿の実施は欠かせません。

  エネルギー摂取量や食事内容は蓄尿では把握できないため、食事記録を分析して評価します。これは正確性に欠けるが、食品別摂取量・

  治療用特殊食品の使用状況・動蛋比・食品数・献立・調理・味付けなど、食事内容をきめ細かく把握する為に欠かせません。

  食事記録は、患者自身が食品を計量と併せて毎日実施することが基本です。さらに、食品成分表を使用して患者自身が栄養摂取量を

  計算することも重要です。決して食品交換表ではありません。両者には大きな計算誤差が出て、不正確で臨床効果が得られません。

             *低蛋白食に対するコンプライアンス(従順)と患者の意識   

  ・一般に食事療法は制限が緩いほど実行しやすく、コンプライアンスが良好になる考えられ、緩やかな蛋白質制限に留められる傾向にあります。

  しかし、実際には、制限の厳しさとコンプライアンスの良否に関連性は無く、蛋白質30g(0.5g/kg/日)以下の厳しい低蛋白食においても

  極めて良好なコンプライアンスが得られています。

  ・低蛋白質食を実施している患者の意識調査で、いかに厳しい食事療法であっても十分な効果を実感し、必要性を理解した患者の低蛋白食

  に対する姿勢は大変意欲的である。低蛋白食の効果に期待する患者側の切実な思いと、医療側の認識にギャップがあるように思われます。

  栄養指導を行う上で最も大切なことは、知識や技法の豊富さ、経験年数ではありません。一人ひとりの患者と謙虚に向き合い、緻密に

  臨床経過を追い続け、そして栄養指導の成果を発表する。といった研究活動が健全な医療の進歩につながると思います。