知りたかった食品成分の機能とエビデンス

                                                                 グリシン

  グリシンと聞くと、「睡眠の質の改善」や「作業効率向上」さらに「美肌効果」などを標榜したサプリメント・健康食品が見られますが、本当に

  期待できるのか?グリシンが非必須アミノ酸の1つであることはよく知られてますがその詳しい生体内での機能を知っている方は少ないでしょう。

  人では、体内で必要な蛋白質或いは必須分子として、必要なアミノ酸のうち一部しか生合成できません。人が生合成出来ないアミノ酸を

  必須アミノ酸(人では9種類)と呼び、食事から摂取せねばなりません。一方、生合成出来るアミノ酸を非必須アミノ酸(人では11種類)と呼び、

  グリシンはこの非必須アミノ酸に分類されます。この両アミノ酸も、食事由来の蛋白質が消化管で蛋白質分解酵素により分解され、体内に

  吸収され利用されます。(もっとも、最近では、アミノ酸がいくつか結合したままのぺプチドでも吸収されることが知られています)。

  グリシンは、ゼラチン(コラーゲンを酸・アルカリ処理したもの)から単離されたもので、最も単純なアミノ酸で不整炭素を持たないものです。

  食品・調理学的において、グリシンは甘みを示すアミノ酸として、エビや貝など魚貝類の甘みとして有名です。

                         食品中のグリシン               

食品名 総グリシン(mg/100g)
牛肉 800〜1,400
鶏の皮 1,700
クルマエビ 2,200
サザエ 1,700
食品名 遊離グリシン(mg/100g)
豚肉 0.7
鶏肉 0.3
しょうゆ 184
漁しょう 1,000
わかめ(乾) 450

    グリシンは、蛋白質を構成するアミノ酸です、なかでも筋肉や皮膚を構成する

  コラーゲン分子の中に多く含まれ、コラーゲンの3重らせん構造中のアミノ酸

  のうち1/3がグリシンです。すなわち、蛋白質の構成アミノ酸として肉類など

  動物性食品に多く含まれています。植物性食品には少ないようです。

  遊離のグリシンは、一部の食品を除いて少ないようです。

   生体での働き

  グリシンは2つの経路で生合成されます。1つは、解糖系から合成されるアミノ酸のセリンから合成されます。2つ目はグリシンターゼ

  により、CO2とNH4+から生合成されます。この反応には、N5N10メチレンTHFが炭素原子を供与します。

  人のグリシン要求量はかなり高いといわれています。グリシンは非必須アミノ酸ですが、通常の食事からも摂取しています。

  おおよそ食事摂取量の10〜50倍程度のグリシンが体内で盛んに生合成されています。何故体内の要求量が高いのか?

  グリシンは、細胞内蛋白質や細胞外蛋白質の構成アミノ酸として作用するばかりでなく、核酸のプリン、胆汁酸、ヘムのポルフィリン、

  高エネルギー物質のクレアチン、薬物・毒物の排出を促進するグルタチオンなど、いくつかの生体内に必要な分子の生合成に必須な分子となる。

  すなわち、グリシンの分子そのものが生理作用を発揮するのではなく、グリシンが原料となったり、反応に関与したりして合成される産物が、

  生体内で重要な働きをします。

  さらに、グリシン分子そのものは脳(神経)の化学信号の伝達にも関係します。 即ち、グリシンは神経伝達物資受容体チャネルに直接

  作用し、脊髄や脳幹部分の主要な抑制性の神経伝達物質として作用します。一方、興奮性の神経伝達物質のグルタミン酸やアスパラギン酸

  によるNMDA型グルタミン酸受容体チャネルの活性化に、グリシンは必要な物質として作用します。また、グリシンは血液ー脳関門を

  通過できるので、中枢で生合成されたもの以外に、抹消器官で合成されたり、食事由来のグリシンも脳に移行し、神経伝達に作用します。

  グリシンは医薬品の1成分として使われています。適応は、湿疹、皮膚炎、口内炎、薬疹、慢性肝疾患における肝機能改善です。

  健康食品やサプリメントとして期待される作用ではなく、グリシンの薬物、毒物の排出促進を期待した使用と考えられます。 

  グリシンは生合成され、生成したグリシンは各組織に分布する為、正常な人では栄養学的な欠乏症はありません。一方、グリシン分解酵素の

  先天的な欠損により、体液中にグリシンの蓄積を起こして神経学的な症状を起こすことが知られています。哺乳困難や無呼吸発作を

  起こし、死亡する神経学的疾患ともなります。また、軽症の場合は精神遅滞を示します。

  現時点で、@他の医薬品との併用による統合失調症の治療、A下腿潰瘍、B脳卒中の治療等に効能があると科学的に示唆されている(米国)

  記憶力強化、良性の前立腺肥大症等については科学的データが不十分とされています。

  「睡眠の質の改善」や「作業効率向上」などの効果もデータ不十分です。

  グリシンは、一般的な非必須アミノ酸ですので、通常の適切な摂取では安全性に関する問題は生じません。妊娠中や授乳中の女性は

  使用してはいけません。グリシンは医薬品を標榜しない限り食品添加物として扱われ、調味料や強化剤として使用されています。

  過剰摂取はアミノ酸インバランスを起こすので注意が必要です。また、統合失調症の治療薬クロザピンを用いている場合は、その効果を

  弱めるのでグリシンの摂取は避けましょう。いずれにせよ、消費者が期待する睡眠の改善や美肌効果のデータは十分でないのが現状です。