個別対応による高齢者の喜ぶ食事ずくり

 高齢者にとって食事はいつでも「おいしく、楽しく、待ち遠しい」存在であって欲しいものです。高齢者に喜んでもらえる食事サービス

  の中には、安心して召し上がって頂くための、個人の機能や病態に合わせた栄養管理の充実も欠かせません。

            ▲ ある高齢者施設の栄養管理の基本方針

  1.利用者の「健康長寿の延伸」を目標とした健康的で楽しい食生活の実践

  2.利用者の身体・機能・精神状況や病態・食習慣を考慮した食事の提供

  3.各部署連携のチームケアによる「脱水・低栄養・褥瘡じょくそう、摂食・嚥下障害」の早期発見と早期対応

  4.食事摂取不良や体調不良のためのアシスト食の提供

  5.食事摂取量アップを目指した献立・調理の工夫と調理技術の向上

  6.いかなる食事形態(キザミ食・ミキサー食・プレ鼻腔食など)においても、色鮮やかで食欲をそそる「食の演出」の実践

  7.季節感豊かな旬の食材の選択と心ずくしの行事食の提供

  8.個人・集団における栄養教育の実践

            ▲ 同上 基本食事サービス内容 

  食種 対応サービス 備考
一般食 普通菜 食習慣考慮                       肉嫌い・魚嫌い・うなぎ嫌い・卵嫌い・刺身嫌い・納豆嫌いは主皿に限って代替食を提供します。  
キザミ食 これらの食事サービスは、介護保険で決まっている給食費で実施します。
 一口大キザミ
 普通キザミ  
 超極菜キザミ 身体機能考慮                                           自助具や介護用食器・スプーン、リハビリや理学療法士の指示、 またはケース会議で検討して対応します。
ミキサー食  
 キザミミキサー  
 プレ鼻腔ミキサー    
 プレ鼻腔食    
一般流動食    
考慮食 特別加算外治療食               アシスト食                   低栄養対応食                  ミルクプリンや野菜濃縮スープなど高栄養食品を週間献立でおやつ時に食出しする食事 飲み物(牛乳の代替食)の対応                                      基本は100cc牛乳                                               代替食品の範囲                                           200ccビン牛乳                                             ヤクルト                                               飲むヨーグルト  
   
朝食の主食選択                                          朝食の主食をご飯、(粥)食かパン食を選択できます。  
 
 
   
特別治療食 糖尿食 昼食の選択メニュー                                        麺類・パン・変りご飯・カレー類の献立の時は白飯、(粥)食献立と          選択できます(食事形態における考慮は必要)。 特別治療食は、医師の指示に従うことが原則とされています。治療の効果をあげる為、利用者の状況を考慮・把握し、利用者にとって一番よい方法で食事療法を行います。
減塩食(心臓・腎臓)
高脂血症
貧血食
胃潰瘍食  
肝臓食  
検査食(潜血食等)  
経管栄養(胃ろう含む)    
その他    

 高齢者に安定した食事摂取を望むとき、これまでの食習慣を考える必要があります。基本的な食事サービス内での個別対応の大枠は

 決まっていても、紋切り型の対応では、生活感のある食事らしい食事、喜んで食べてもらえる残量の少ない食事には結びつきません。

 施設で栄養士が作成した献立をそのまま食べる人はほんの数%で、結果、ほぼ全ての人に個別対応しているという状況が生まれます。

 「魚嫌い」といっても魚種・調理による違いであり全てではありません。肉や卵も同じ。

 食事はいくら見た目がよくても、その人の咀嚼や嚥下機能に合ったものでなければ、食べてもらえません。食事の機能に対応できるよう

  主食や副食の形態を数種類用意しておきます。

 大病院以外では嚥下造影検査(嚥下機能をX線で透視して確認する)ができる環境にありません。そこで一般施設では

  「食事中の状況(むせ、痰、咳や食事・水分摂取量の減少等)を観察する→必要な時には形態の変更の試行をする→変更の前後の状況を

  比較する→評価決定をする」を繰り返しながら試行錯誤しつつ、食事形態を決めていくことです。 また決定後も誤嚥性肺炎が

    疑われる頻回な発熱の観察などの確認も欠かせません。他に身体の機能に応じた自助具の活用で自立維持につなげます。

 高齢になると殆どの人が何かしらの病気と付き合いながら暮らしています。個別対応の治療食が必要となります。「嗜好を考慮し、残菜が少なく

  食べてもらえる」食事が優先されます。調味料を変えたり、食材を使い分けることによって、隣の席で食べている人と見た目にはあまり

  変わりがない治療食にする工夫も必要になります。 さらにアレルギーや服薬関連による禁止食品の把握も必須事項です。

  ターミナル時(余命1〜3ヶ月の終末期)には本人が希望し、食べられるものであれば何でも食べていただくアシスト食(体調回復や精神安定を

  最優先に考え提供する食事)も必要になります。

                                                                             

                                ▲ 食事記録表によるチームケア

  高齢者者の中には様々な人がいて彼らの声にならない声を聞き、満足する食事ずくりをするためには、毎日食事介助をしている介護職員との

  連携と毎食の食事記録は、実質的かつ客観的な評価につながります。また記録と献立表を見合わせると大体の嗜好傾向がわかってきます。

  そして記録は脱水、低栄養の予防においても重要な意味を持ちます。記録がないまま「何だか食事量が低下しているみたい」「半分ぐらいしか

  食べていないみたい」では報告を受けてもあいまいで、危険の早期発見と早期対応にはつながりません。

  毎食の食事記録は誰でも書ける簡単なものが便利です。

                              例:  食事・水分記録表(単位:cc)

月日   朝食 水分 昼食 水分 夕食 水分 水分
  メニュー メニュー以外の水分 10時 メニュー メニュー以外の水分 3時 メニュー メニュー以外の水分 夜間 総量
2/1

150

65 150 200 1/2 100 100 765
2/3
2/2 150 150 150 200 150   800
3/4
2/3 150 100 150 200 150   750
3/4
                       
       
                       
       

   食事記録表に合わせて、施設の献立表から簡易水分換算表と簡易栄養換算表を作成し、医務課、栄養課で計算します。

   記録をつけるということで、職員の食事・水分に対する問題意識、連携への意識が高まります。

               ▲ 見回りサービス

  施設によって厨房と食堂がカウンター越しにつながっているとは限りません。厨房で一生懸命食事を作っても、ともすれば栄養課の

  自己満足になりがちで、食堂での利用者の状況と温度差が生じます。高齢者の顔が見えない厨房内でできる個別対応では限界があるのです。

  厨房の職員も食事を出した時点で安心し、利用者に対する意識が薄れてしまう危険もあります。

  そこで食事現場での対応の必要性を感じ、栄養士だけでなく、その日の調理責任者が「見回りサービスバック」を持って食事の見回りを

  行います。バックには”ミニまな板、ぺティナイフ、キッチンバサミ”、また食欲のない人用にのり佃煮、梅ぼし、鯛味噌等が入ってます。

  高齢者の食事の満足度や摂取状況は、その日の体調、献立内容、食品の食べやすさ等いろいろな要因が影響しています。

  その状況が直接見える場面での気持ちの通じたサービスの大切さ、高齢者はふれあいやコミュニケーションを楽しんでいます。

  それは調理職員の充実感や向上心にもつながっています。見回りは基本的には「朝礼時にその日の献立内容の注意点や意識して

  見回る目的を確認する→担当者が見回りをする→見回り結果をノートに記録し報告する→調理方法や献立、利用者の食事形態の見直し

  につなげる」という流れで行います。

               ▲ 取り組みの評価

  1.食事記録表より→食事摂取量が取り組み前後と比較して向上したか、安定したかどうかを見る。

  2.体重記録表より毎月の体重の変動を把握する。

  3.血液検査結果より治療食対応の評価(改善状況)と総体的な指標として血清アルブミン値の推移を把握する。

  これらは食事に対する一種の成績表です。客観的データに裏ずけされた評価はわかりやすく、説得力もあります。

               ▲ 今後の課題

  周囲にいる各職種の専門家(医師、歯科医師、看護師、社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士)と

  一緒に仕事をする中で、栄養士、調理師は食事だけ見ていてはいけない。必ず対象の人である全体(全身状態、生活・介護状況、

  取り巻く環境等)を見なければ喜ばれる食事につながらないと思い知らされます。

  万全の食事提供体制でもこれは食事中心の視点で、食欲が低下したり、これらが受け入れられないとき全体の大きな視点で

  何が原因かをしっかり見極める力が必要です。

  ✱高齢者の食欲不振要因→摂食嚥下障害、ストレス、脱水症状、咀嚼障害、風邪・発熱、味覚障害、睡眠不足、消化機能低下、便秘、

                   歯周病、痴呆悪化、疾病悪化、口腔内の汚れ、環境変化、活動量減少などがあります。

  さらにその要因にあわせた的確な対応をいかにできるかが、提供する側の自己満足でない本当に高齢者に喜ばれる食事サービスに

  つながると考えます。安全で機能や病態に合った、美味しく楽しく喜ばれる食事の提供を目指してください。

  ★平成17年の介護保険制度の見直しは、栄養・食事サービスを担当する部署にとって大きな変革でした。

    高齢者施設における「栄養ケア・マネジメント」が具体的に示され、高齢者の低栄養状態の改善を中心に「口から食べること」、

    「個別サービス」、「多職種協同体制」がより重要視され、利用者の日常生活機能の維持・向上の支援を尊重した適正な

    「栄養ケア」が求められています。                             戻る  

    「栄養ケア・マネジメント」が利用者本位で実施できたかを確認しつつ、各職種間での自分の領域を確認し、チームケア体制を

    整えてその効果を発揮する事が求められています。