糖尿病と血糖の調節  

  糖質の代謝:食物中の糖質は消化管で分解され、小腸で吸収される→吸収された糖は肝臓に運ばれ、

          全てブドウ糖に変換される→ブドウ糖は肝臓から血中に入り、血糖として全身に送られる。

      インスリンの働きで血糖値を調節する→

      @インスリンの助けによって、ブドウ糖は筋肉や臓器の細胞内に取り込まれ、エネルギー源になる。

      Aインスリンの助けによって、ブドウ糖は脂肪細胞に取り込まれ、エネルギー源として貯蔵される。

      ○健康な状態の血糖値は70〜110mg/㎗  ○インスリンは血糖値を下げ、グリカゴン、

     アドレナリンは上げる。 ○糖尿病で血糖値が異常に上昇(約160mg/㎗以上)すると、

     ブドウ糖は尿中に排出される。 

   糖尿病:●インスリン非依存型→インスリンは分泌・供給されるが、細胞膜でのインスリン

       抵抗性が強く、インスリンの作用が不足している。→遺伝的体質、ストレス、肥満、

       食べ過ぎ等が原因で、殆どがこのタイプで中高年に多い。

       ●インスリン依存型→膵臓に障害があってインスリンの分泌が不足し、血糖は筋肉

       細胞や脂肪細胞に取り込まれない。→インスリン注射などで補う、若年層に多い。     

      

「隠れ糖尿病」を見落とさない!

  

  ”隠れ糖尿病”とは、朝食前空腹時の採血では血糖値が正常域にあるため、”正常”と判断されるなかに実はU型糖尿病になっている

  という例を指し、国民への啓蒙につながるよう使われている言葉である。こうした状態の患者は通常の健診では見落とされている。

  内臓脂肪蓄積型肥満以外の因子がいずれも”未病状況”にあるMS(メタボリックシンドローム)例は医療の対象になっていない。

  肥満でFPG(朝食前空腹時血糖値)が110〜125mg/㎗、すなわちIFG(空腹時血糖値異常)であるような場合、

  OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)をするとほぼ糖尿病型かIGT(耐糖能異常)になっている。

 FPGが110mg/㎗以下であっても、血圧が少々高い、脂質代謝異常がある肥満者では、MSの本態といわれる”インスリン抵抗性”の為、

 OGTTの結果はIGTや糖尿病型になっている可能性が高い。肥満者ではOGTTの結果がたとえ正常型であっても、インスリン抵抗性を 

 インスリンの過大分泌により代償している場合が多い。従ってMSが疑われる場合は、積極的にOGTTを実践する事が望ましい

  その際、インスリン分泌動態、分泌量を把握する為投与前、投与後30分、60分、120分の血中インスリンレベルの計測が有用であろう。

 *糖尿病境界型は耐糖能が軽度低下し、健常者に比べて血糖値が少々高い状況である。これを2型糖尿病と診断しない理由は「この程度の

  耐糖能異常であれば、糖尿病に特有の細小血管障害が発症しない」からとされている。しかし、糖尿病性網膜症が進展している。

  或いは神経障害が顕著な例もある。それらは、現在、血糖反応が境界型の領域だったとしても、過去に糖尿病状況だった時期が長かった

  とも考えられる。すなわち、境界型の時期は正常血糖応答に戻りつつある段階、或いは糖尿病に進行しつつある段階であろう。

  しかし、この段階で動脈硬化症が進展することを注意せねばならない。糖尿病境界型や2型糖尿病の発生機序は1例1例で、かつ

  各時点で病態が刻々と変動することから、病態生理を的確に把握することは、介入手段を決定するうえで必須となろう。

 *経口摂取された糖質が全身細胞のエネルギーとして利用されていく様を”糖の流れ”という。

  ”糖の流れ”と、その結果としての血糖応答反応を制御しているのが、インスリン分泌動態と全身細胞のインスリン感受性の程度に

  あることはいうまでもない。食間・夜間には、インスリン基礎分泌により制御された肝・糖放出率と、基礎分泌により刺激された全身細胞での

  糖取り込率がマッチして、血糖値は正常域に保持される。一方、摂取時に十二指腸から門脈への急速なブドウ糖の流入による血糖値上昇

  →瞬時のインスリン分泌亢進→門脈インスリンレベル上昇による肝・糖放出率低下、肝・糖取り込み率亢進→肝を通り抜けたブドウ糖による

  抹消血中血糖値上昇→筋・脂肪組織の糖取り込み率上昇→血糖値前値に復する、という機構が働く。即ち、インスリン分泌とその作用を

  受ける臓器のみごとな協調作用により、血糖応答がうまく制御されている。この機構のいずれに乱れが生じても、耐糖能障害が生じる。

  *耐糖能障害例が激増している理由

  生活習慣→過食、運動不足、肥満の増加がある。             その機序

     高エネルギー食、高脂肪食 →    脂肪細胞の肥大化 → FFA放出↑

         身体活動低下  →    <                                                    > ┐

                            肝・骨格筋への脂肪蓄積 TNFーα↑ レジスチン↑、レプチン↑アディポクチン↓ ↓

                                                                               │                                                                        ┌───――───↓─―――─────────────────-──────―──┘

                                 ┌───────────――――───―――───―――-───┘                                                                                |       インスリンの働きの低下  →  肝・糖放出率↑ 筋・糖取り込み率  ↓ ┐

                  │                      ↓    └───────────┐ ↓

                  │               代償性インスリン分泌亢進              │ │ 

                  │     ┌──────  高インスリン血症   ───────┐    │ │

                  ↓     ↓              │      │            ↓     ↓ ↓

                  動脈硬化促進  ← ――――――┿────╋───────→ 2型糖尿病の発症

                   ↑  ↑________ 高血圧――高脂血症________↑   ↑

                   └────────────┿─────┘                  │

                                       └────────────────-─┘ 

     注:  FFA→遊離脂肪酸     TNF→脂肪細胞から分離される生理活性物資

  さらに、肝や骨格筋細胞への脂肪蓄積が直接的にインスリンの作用を低下させることにより、対糖能異常を発症すること、短期間の

  食事・運動療法が肝細胞内中性脂肪量、筋細胞内中性脂肪量を激減させ、OGTT血糖応答反応を激変させることが示された。

  遺伝的特質

  しかし、同じように乱れた生活習慣のある者でも、耐糖能異常や2型糖尿病を発症する場合としない場合がある。

  食後血糖値が上昇した際、瞬時のインスリン分泌が見られない、遅延して分泌が見られる、さらに分泌量も少ないという2型糖尿病の

  遺伝性を示すのは、両親のいずれかが2型糖尿病である場合は、わずかにインスリンの働きを低下させる事象が加わるのみで、インスリン

  分泌量が少ない為、糖代謝異常がたやすく発症すると思われる。

  高インスリン血症

  もう一つの発症機序は、インスリン分泌パターンや分泌量に異常がなくても、硬度の過食、運動不足が持続すると、慢性的な高インスリン血症

  が脂肪肝、内臓脂肪蓄積型肥満を惹起じゃっきし、肝の糖代謝異常、脂質代謝異常などから耐糖能障害が発症する。

                                            内臓脂肪蓄積 ───────→ 脂肪分解

                                             ↓           

          インスリン分泌亢進  →   肝・糖取り込み率↑ → 脂肪肝

          ↑  ↑    ↑ ブドウ糖流入過多                        |  

          │  │    └   過食・間食  /             |

          │  │     アルコール摂取過多              |

                      |  └────食後高血糖←─肝・糖取り込み率↓ ←―┘

          └───空腹時高血糖←─────肝・糖放出率↑←−―┘  

 * 耐糖能障害が発症する病態機序      

  FPGの場合

  FPGが10時間以上の絶食にもかかわらず、110mg/㎗以上になっているのは、肝・糖放出率が全身・糖取り込み率を上回る

  状況が継続した結果であり、その多くは@内因性基礎インスリン分泌率の低下が挙げられるが、Aたとえインスリン分泌率が

  低下していないとしても、インスリンによる肝・糖放出率が抑制されないこと、或いはインスリンによる筋・糖取り込み率が

  高まらないことが重なった為と考えられる。

 健常者で内因性基礎インスリン分泌率は1時間当たり1単位程度であり、その結果、朝食前空腹時血中インスリン値8〜10μU/となる。

 朝食前空腹時血糖値が150mg/㎗程度であり、朝食前空腹時血中インスリン値が10〜20μU/㎖であるとすると、その状況は、

 インスリン分泌が不十分→インスリンによる肝糖放出率抑制不良、全身糖取り込み率不良→夜半血糖値上昇→血糖値上昇による

 インスリン分泌不十分と理解すべきである。一方、FPGが120mg/㎗程度であり、朝食前空腹時血中インスリン値が20〜30μU/㎖である

 といった状況は、肝や筋でのインスリン働き不良がある→肝・糖放出率抑制不良、全身・糖取り込み率不良→夜半血糖値上昇→

 血糖値上昇によるインスリン分泌亢進→異常な高血糖の是正と理解すべきである。

  OGTTの場合

  OGTT後、或いは食後の血糖値レベルの規定因子は何であろうか?FPGのレベルと無関係に、食後には必ず血糖値が上昇する。

  つまり、食事の糖質が十二指腸で急速にブドウ糖と果糖に変換・吸収され、門脈に流入する。その際@分泌されたインスリン量、インスリン分泌の

  タイミングによる肝へのインスリンの供給、A肝が流入したブドウ糖をどの程度取り込むか、B肝・糖放出率が素早く抑制されるか、

  が食後血糖値を規定する。すなわち、食後、肝に流入したブドウ糖を肝にどの程度取り込ませるかが食後血糖応答制御のキーとなる。

 *動脈硬化を進展させる食後のみの異常な血糖上昇

  「食後のインスリン分泌が生来低い、かつ遅延している」という特質を持つ人は、糖尿病発症前には全身細胞、特に肝のインスリンの

  感受性が亢進していて、食後には少ないインスリン分泌で肝・糖取り込み率が亢進し、”糖の流れ”を正常化させている。

  やがて軽度な過食、内臓脂肪蓄積、脂肪肝、運動不足などのため、亢進していたインスリン感受性が健常者並になると、インスリン分泌が

  少ない為、直ちに糖の処理が不十分になる。これを血糖応答の面から見ると、最初の異常として食前正常血糖値、そして食後のみ

  短時間血糖値が高くなり、さらに高血糖の持続時間が徐々に伸び、やがて昼食前血糖値、夕食前血糖値が高くなる。さらに進むと

  12時間以上の絶食にもかかわらず、朝食前空腹時血糖値が上昇し始め、空腹時血糖値が126mg/㎗以上となる。ここで糖尿病と

  診断された際には、すでに糖尿病罹病りびょう期間が長くなっている可能性がある。つまり、IFG,IGTが見られた時には、

  その原因を把握し、再び正常血糖応答の状況に戻すよう努力することが大切だ。

  肥満が糖尿病の引き金と捉えられがちだが、むしろ食後高血糖に刺激されて遅延し、かつ過剰に分泌されたインスリンが、

  運動不足の人において、肝のみならず脂肪細胞にブドウ糖を取り込ませることとなり、肥満を助長させているのだ。

  さらに脂質代謝異常をも引き起こしている。こうした食後の過剰なインスリンが、例えばアンギオテンシンUの1型受容体を

  刺激して高血圧を起すと捉えることもできよう。”宿命的な”インスリン分泌動態が生活習慣病を勢揃いさせ、動脈硬化を

  進展させる。

   

  1の時点→食事

  6の時点→運動不足、過食

     8の時点→肥満・脂肪肝

         高脂血症、高血圧 等が発症する

   2型糖尿病の進展を阻止する薬剤として

  aグルコシダーゼ阻害薬、メトホルミン、チアゾリジン、

  グリ二ド系インスリン分泌促進薬、スタチン、フィブラート、

  アンギオテンシンU1型受容体拮抗薬などが挙げられる。                                                       

 

   *食後高血糖の制御手段→肝・取り込み率を高める

  未病状況を的確に捉え、発症予防することこそが最も効率のよい予防医療となるであろう。さらに、食後のみの高血糖が発見された

  症例では、糖尿病の進展阻止、動脈硬化症の発症・進展阻止の為、治療を開始すべきであることはいうまでもない。

  ”肝・糖取り込み率が食後血糖値を規定する”    ★ 肝・糖取り込み率制御因子(この中の条件を満たす治療法を実践する)

  1.肝・筋の糖・脂質代謝を正常域に保持する ← 食事・運動療法、アクトス、メトホルミン

  2.肝への速やかなインスリンの供給 ← グリニド、超速攻型インスリン

  3.毎食前の血糖値を正常域に保持する ← 毎食後の血糖応答の速やかな正常化、間食の禁止

  4.ブドウ糖の大量の肝への流入を減らす ← 的確な食事、清涼飲料水の禁止、α−GI、食物繊維

  5.積極的に肝に糖を取り込ませる薬剤 ← アクトス

  6.内因性インスリン分泌量を保持する、回復させる ← 高血糖を取り除く ← 薬物療法のタイミングを逸さない ← 膵外分泌腺細胞を

   インスリン分泌細胞に変えることも夢ではなくなってきた!

  2型糖尿病の本態は、食後高血糖にあり上記の様々な手段が悪循環を是正する。

  日本ほど健診やドックで早期に糖尿病が発見されている国は他にないが多くの生活習慣病には自覚症状が全くないため、糖尿病に対する

  的確な説明をせずにいると、患者は糖尿病を放置することになる。意を決して受診した患者に対して血管障害の進行度や予後予測を

  的確に伝え。血糖コントロールの重要性を患者自身が認知しなければ、長期にわたるコントロールは不可能であろう。

  血糖値、血清脂質、血圧の総合的な管理があって初めて血管障害の発症・進展阻止が図られる。

  血糖コントロールにおいても、多彩な薬剤の作用機序を考慮した使用、単独や併用療法により、低血糖を惹起しない、食後高血糖を

  来たさない、優れたコントロールも可能となってきている。

  隠れ糖尿病を早期に発見すべく、2型糖尿病発症リスクの高い例、メタボリックシンドローム例などでの緻密な検査が必要であろう。

  とくに、2型糖尿病を介してその子、孫に生活習慣の歪みがないように指導することが最も大切で、かつ効果的と考える。

  朝食前空腹時の採血、採尿が中心の健診のあり方を考え直す時期に来ているのでは?