生涯健康脳

  ◎脳は諦めない!

いくつになっても「海馬」の体積は増える! 素晴らしい認知力を支えた100才の脳
脳は「トレーニング」で変化する 「生活習慣」が遺伝子を超える
脳のネットワークは、壊れた領域をカバーする 「生涯健康脳」で生きる

  ◯いくつになっても「海馬」の体積は増える!

  「脳の細胞は大人になったら、後はもう減るだけ」と、当然のように誰もがそう思っていました。脳医科学の世界でも、脳の神経細胞は加齢とともにどんどん減る一方で、もう新しく生まれないと

  思われてきたのです。しかし、先の「海馬」について述べたように、実際はそうではなかったのです。1998年、脳の世界においても天動説が地動説に塗り替えられるような発見がアメリカの

  研究者によって発表されました。記憶や脳の中枢を担う海馬だけは、いくつになっても神経細胞が新しく生まれ、海馬の体積を増やすことが分かったのです。つい、10数年前の出来事です。

  実験は余命短い高齢の癌患者の、死後の解剖までの同意と協力によって行われました。癌細胞が増える時に赤い色を放つ薬品の投与を行い、死後直後に脳の解剖を行ったところ、海馬の

  神経細胞が増えている事実を突き止めたのです。この世紀の発見は「皆さんのためにお役に立つのなら」と協力してくださった多くの患者達の賜物でした。その後、様々な実験が世界中で行

  われるようになり、海馬の脳細胞はいくつになっても生まれ、その体積の増えることが立証されてきたのです。このような興味深い報告もあります。ロンドンの道路はとても複雑で、タクシーの

  運転手の試験が難しいことでも有名です。イギリス人から見ると、「こんな入り組んだ道に迷うことなく自由自在にどこにでも行ける運転手の脳は、普通の人と絶対に違う!」という思いがある

  ようです。そこで、ある研究者が複数のタクシー運転手の脳を調べたところ、やはり「海馬」の体積が増えていたのです。更にベテランになればなるほど、この海馬の体積は大きかったという

  報告がされています。海馬はアルツハイマー型認知症やうつ病で最も障害を受けやすい場所であり、海馬が損傷すると記憶という大切な働きが失われます。この「人間らしさ」にとって重要な

  海馬の神経細胞が、高齢になってからも増殖して、しかも海馬そのものの体積を増やすーこれは、脳医科学の常識が破られる大発見であり、まさに、高齢になっても「脳」は輝かしい未来が

  ある」ことを意味します。記憶のネットワークを司る重要な海馬は、に伝えたように「わずか30分の有酸素運動で健康を保つ」ことができます。是非実践して見て下さい。「生涯健康脳」のため

  に、脳の司令塔である海馬の強化は何よりも大切です。

  ◯脳は「トレーニング」で変化する

  脳は、一般的に12才前後の思春期頃にほぼ完成すると言われています。そして、完成した後の脳は、従来は静的で形態が変化しないものだと思われてきました。ところが「海馬の神経細胞

  が増える」に次いで、2004年にその定説を覆す衝撃的な発表が科学雑誌(ネイチャー)に掲載されたのです。その衝撃的な内容とは、大学生を対象に大道芸などで見られる「複数のものを

  空中に投げ続けるジャグリング」をやってもらったところ、頭頂葉や側頭葉の脳の体積が増えたというものでした。このことによって、脳は静的なものではなく動的なもので、脳はトレーニングに

  よって変化するものであることが分かったのです。この報告には研究者も驚き、その後、ピアノのトレーニングすると、やればやるだけ右の脳と左の脳をつなぐ「脳梁(のうりょう)という領域が厚くなること

  や、バスケットボールの選手やバレエダンサーなどは運動に関係する脳の領域が大きくなることなど、「脳は変化する」ということが次々と報告されてきました。脳の完成後、新たに神経細胞を

  生み出すことができるのは海馬だけですが、海馬以外の領域に至っても、脳はトレーニングによって神経細胞と神経細胞をつなぐネットワークを発達させ、体積を増やし、その部分の働きを

  増す能力を持っていることが分かったのです。つまり脳には、外部からの刺激や作用によって形が変化する「可塑(かそ)性」があることが分かったのです。コレは海馬の新生の事実に加え、

  脳科学の歴史を大きく塗り替える発見という事ができるでしょう。そして、、これは脳の限りない可能性も意味します。これらの可塑性は若年層に多く見られるものですが、先のジャグリンの

  トレーニングでは、平均60才の健常な高齢者を対象にした検証でも同じような結果が得られたという報告があります。中年期、また高齢であっても、脳は変化する可能性が充分にあるという

  ことです。

  ◯脳のネットワークは、壊れた領域をカバーする

  脳は奇跡とも思える事を起こすことがあります。病気や事故で脳にダメージを受け、何年もの長い期間、反応のない患者に、積極的に話しかけたり手足を動かしたりと、献身的に刺激を与え

  続けると、少しずつ反応が出てきて回復したという素晴らしい事実もあります。刺激を与え続けることが脳にプラスに働いた、まさに「脳の可塑性」を表すものです。脳は一度損傷しまった部分

  は、元に戻ることはありません。では何故、失われてしまった機能を取り戻す事ができたのか。それは、脳には、病気や事故などの障害、老化によって、脳の神経細胞と神経細胞のネットワー

  クに損傷が起きた場合、新しいネットワークを再編成して、そのネットワークを活性化させる働きがあるのです。例えば脳梗塞などによって脳に損傷が起きた場合、壊れてしまった領域は再生

  しないのですが、周りの領域が壊れた部分の働きをカバーしたり、脳の右半球でできなくなったことを左半球で代替えしたりして、失った能力を新たに獲得することが分かっています。子供に

  近ければ近いほど、その「可塑性」は高いと言えるが、高齢であっても脳に刺激を与え続けていると、それがプラスに働き効果をもたらす場合があります。プロ野球の長島監督は、発作性心房

  細動に伴う脳梗塞で倒れました。医師には「寝たきりも覚悟しておいて下さい」と言われるほどの重症でした。それが厳しいリハビリテーションを重ね、見事に奇跡的な復活を遂げられました。

  すでに損傷して機能を失った脳ではなく、超人的なリハビリが他の領域を活性化し、「新たなネットワーク」を作り、見事に復活させたのです。「本人が諦めないと、脳も諦めない!」ことを教え

  てくれます。