命の値段が決まる時

  ◎介護保険とコスト

  他人が自分の家に入ってくることを嫌っていた患者家族や、老人を介護施設へ入れることを世間体が悪いと言って嫌がっていた家族が、介護保険により、うまく施設

  や外からの介護力を利用できるようになった。往診に行っても殆ど喋らなかった患者が、デイケアに通うようになり、はっきり喋るようになったりしている。確かに介護

  保険は成果を上げている。介護自体に反論があったが、始まってしまうと、制度自体への風当たりはそれほどはなくなった。まだまだ問題点も多いが、介護ではお金を

  支払うことで、より良いものを受けれる仕組みを作り出したことは評価できる。介護は人の手を必要とし、金で解決できる部分を持っている。問題はその金をどこから作り

  出し、どう使うかである。一般企業も参入し、介護産業は大きく成長しようとしたが、実際には思うような産業になりえていない。それはどこに問題があり、改善は可能で

  あろうか、医療も市場経済を導入しようとしているが、介護では先にそれが行われた。介護という特殊な状況を、利用者はどう判断したのか、一般企業は十分な理解を

  していたのだろうか。

ケアマネジャーの資格試験に殺到した理由 お金を支払えば介護は良くなるか
何故他の企業からの参入がうまくいかないのか どこに入所すればいいのか
元気になって困る家族 ここに金を使え

  ●ケアマネジャーの資格試験に殺到した理由

  問題を残したまま介護保険が始まったが、介護保険を上手く利用して元気になった患者は多い。介護保険で1番意味のあることは、介護、つまり人の力を借りることは、

  いかに金がかかるかということを、はっきりと金額で示したと言うことではないだろうか。今まではボランテイアや公的な機関からのサービスとして受けていたものが、

  きちんとお金を払い、サービスを受ける。受けるからにはあくまでも消費者と言う立場で文句が言えるメリットが生まれた。医療の中で金銭的な感覚をはっきり示した

  ことは、大きな変化である。それだけに一般企業からの介護ビジネスへの関心が高まり、同時に介護保険で中心的役割を果たす、ケアマネジャーに関心が高まった。

  ケアマネジャーの資格を多くの人が取得したが、臨床の経験のない人が多く、あくまでも資格として取っているだけで終わっている人が多いのが難点である。

  ケアマネジャーの試験はナースが受けるケースが多い。ナースには上昇志向が強いからだ。唯、資格を持っていても、十分に活かされていないケースも多い。

  ケアマネジャーは、医者の開業の様に完全に独立して、営業できる環境ではない。そこには医療における利権を医者側が、完全に手放したくないという本音が見え

  隠れする。ケアマネジャーの画期的なところは、医者以外に裁量権を持つ人が現れたことである。今までは何でも医者が決定しなければ,仕事が進まない状況で

  あったが、ケアマネジャーの存在は大きな進歩と改革である。特に介護と言うのは、医者側が最も経験の少ない分野であり、やはり専門家としての目が必要であろう。
  
  ただ、ナースがケアマネジャーの資格を取りたいと思うのは、医者が余りにも医療の中で独占的な権利を持っていることへの裏返しであろう。医者の裁量権の分配が

  もっと必要なのだろう。薬の処方では薬剤師、検査の種類の決定には臨床検査技師、X線の撮影はX線技師など、今は全て医者が握っている裁量権を各分野の

  専門家に分けていくことこそ、風通しのい医療が行えるようになる。

  ●何故他の企業からの参入がうまくいかないのか

  お金を支払うと言う立場になった患者や家族は、それまでは「やってもらっている」と言う負い目から、自分達の不満をぶつけることが出来ず、我慢をしていた。それが、

  利用者と言う立場に変わり、十分なケアをしてくれなければ、介護者を変えることも原則的には可能である。それが介護を受ける側にとっては画期的な事であった。

  介護者と介護を受ける側、更に家族との関係は非常に微妙なものだ。他人が自宅の中に入ってくるわけであるから、家庭内のプライバシーも見られてしまうことになる。

  それに非常に抵抗感を覚える人も多い。やってもらっているという立場であれば、介護者に対して十分な注文をつけられなかったが、立場は逆転して、介護者が気に

  入らなければ別な人を派遣してもらえるようになった。これは、市場経済と言う視点からは、まだまだ保護されている医療の中で、競争原理が持ち込まれるようになった

  と言うことだ。実際、他の企業から介護ビジネスへの参入が始まったが、意外にうまくいっていない。医療への一般業種からの参入は医療を解放し、民間活力を導入す

  る方法として、期待が持たれていた。介護ビジネスに一般企業が中に入り込めないのは、介護と言うものが独特の世界であるからだ。介護する側がビジネスライクに

  なればなるほど、利用者はその会社を利用しなくなってしまう。実は介護保険が始まる以前から、在宅医療を行っていた地域では、患者と在宅医療を行なっていた

  病院のナースや医者との間に、親密な関係が出来上がっていた。介護保険が始まっても、以前から介護を受けていた医療施設に派遣を頼んだ為に、後から参入して

  きた業者には、詳しい情報が手に入らず、結局大手企業の介護ビジネスは上手くいかなかった。介護の中で重要なのは、信用と人間関係である。これはいくら調べて

  も、長年やっている所にはかなわないのだ。多くの介護専門業者は地域密着で、その地域の病院に勤務していたナースなどが独立して介護の仕事をしているから、

  患者からの信頼は厚い。医者にかかるのは大病院志向だが、介護はもっと別なものが求められていると言うことを読み切れなかったのだ。