命の値段が決まる時

   

   「命は地球より重い、お金と対等に考えることは間違っている」それが今までの一般的な考え方だったし、医学部でも医者になった後でも、先輩達から

  「医療費のことなど考えなくていいから、とにかく患者を助けるんだ」と教育を受けた。あるケースでは濃厚な治療をした後、1ヵ月後に患者は死亡し、

  家族は500百万近い請求書を突きつけられ、高額医療として補填されるとはいえ、一時的に支払わなければならなかった。「長くお世話になりました」と

  挨拶に来た亡くなった患者さんの家族が高額医療費に対する不満を言ったが、医者としては、あくまでも他人事であり、自分達は正しいことをしていた

  と信じていたので、負い目は全く感じることなく「大変ですね」で終わってしまった。それから20年以上が流れた。時代はすっかり変わってしまった。

  日本でも臓器移植が始まり、医療受診での平等性は保つことが出来なくなった。つまり、真っ先に臓器提供を受けられる人、何らかの理由で治療順が

  2番になる人が生まれる。そこには従来の医学的道徳観では納得できない事実がある。医療費は右肩上がりできていたが、現在は国の政策によって

  抑えられてはいる。しかし、このままでは医療機関での窓口の支払いはますます上がり、健康保険制度は破綻するだろう。これからの医療を考える時、

  医療と金の問題は切り離せなくなっている。アメリカの名医の定義は簡単である。低コストで医療ができる医者がいい医者であり、民間の保険会社からは

  高く評価される。安い薬、少ない検査で医療が出来るのがいい医者になったのだ。臓器移植をいくら待っても日本では受けられない為に多額の医療費を

  募金や自らで負担し、海外まで出かけて手術を受けてくる人まで現れている。経済が常に拡大し、国民総生産が上向きの時は、医療費も無限のように

  思えた。しかし、今はっきりしてきたことは、医療費には限りがあり、高度な医療を行っていくには金がかかるという事実である。

  その中で、我々はどう人間の命と金を考えていけばいいか、現在の状況と、これからの考え方を述べます。

治療の値段 医療情報とコスト
検査のコスト 研究とコスト
医者のコスト 介護保険とコスト
薬から見た医療のコス 命は金で買えるか
代替医療は高いか あとがき
                                                           

  ◎治療の値段

  診察は診察券を早く出した順だから、よほど具合が悪くないかぎり、順番通りに診察するしかない。しかし、順番は時には狂うことがある。

  病院の理事からの紹介や教授の友人と言う患者の場合は、順番をずらして早く診察することもある。順番通りに待たせておいたら、理事から電話があり

  「あの人をどういう人だと思っているんだ」などと文句を言われたこともある。そうなれば受け持つしかない。しかし、普通の入院は主治医は順番で決まる。

  つまり医療は原則として平等を非常に重視してきた。どんな患者も皆同じように診なければならない。そんな医学教育を受けてきた医者とナースは、

  順番を守らないことに妙に反発してしまう。しかし、それが正しいことであろうか。今時、お金のある人もない人も、時間のある人もない人もまるで平等に扱う

  のが当たり前と思われている業種は医療くらしかない。新幹線や飛行機、ホテル等の料金の違いは歴然としてある。医療の中で患者側に選択権があるのは、

  入院した時、病室を個室にするか大部屋にするくらいの選択しかない。重症だから早く診るというのは当然だろうが、「忙しいから早く診てくれ、金は出すから」

 と言う人に対して、何故医療だけはそれを金持ちのわがままとみてしうまうのか。入院して「あの先生に診てもらいたい」と指名できないし、指名料金を取る

  こともできない。それは医療の本質とは違う。金で動いてはいけないと言う妙な感覚を持っているからだ。「有名な医者にいくらでも払うから、手術して欲しい」

  と言う人もいるであろう。しかし、実際にはコネを使うくらしか方法は無く、入院してからお礼と称して現金を渡しているのが本当のところであろう。

  医療の差別化を全くやってこなかったことが、患者の医療に対する不満の原因にもなっている。最早、全ての患者を同じ料金で満足させる医療など不可能で  

  ありながら、いまだに患者は劣悪な環境の病院で、診察を受けねばらない。健康保険という枠の中で、医療は妙に規制され、余裕のある医療が出来なく

  なってしまった。有名な医者、有名な大学病院に優先的にかかれるのは、1部のコネを持つ人達である。しかし、有名な教授の外来へ、紹介状もなく

  行っても診療拒否ができないので、診察してもらえるのが日本の医療のいいところであり、欠点でもある。多くの人がそれをしないのは、どこに有名教授

  がいるのか分からないからであり、どこへ行っても大して変わりないと考える面もあるからであろう。医療技術は病院や医者によってかなり違う。

  それを患者が選択できないのは、不幸である。そんな現状で、どう金を使って自分の命を守ればいいのだろうか。