命の値段が決まる時

命は地球より重いのか 効率のいい治療をどう評価すればいい
無視されていた医療コスト 病気を予防すれば医療コストは下がるか
金のことは考えずに働く不思議な人達 人間ドックという矛盾に満ちた金の使い方
高齢者ほど金がかかる医療 安く長生きさせる方法
1番高くつく治療は臓器移植か ここに金を使へ

      ●命は地球より重いのか   

 ある研修医が教授回診で「この検査は非常に高いのでやりませんでした」と言った時、教授が烈火のごとく怒り出したことがあった。「若いのに、金のことを考えるなど

  けしからん奴だ」頭ごなしにそう注意した。 治療費のことなど気にせず、検査をし、薬を使っていくのが当たり前であり、それこそ真剣に医療に取り組む医者の姿だと

  信じられていた。25年も前までは、治療のコストなど、考えることすらタブーであった。むしろ金のかかる検査をし、高額な治療薬を使った方が、病院の経営に貢献して

  いると、言う医者もいた。しかし、今から考えると、あの時、教授回診で「値段の高い検査なので、やっていません」と言い切った医者こそ、いま求められている医者の

  姿になってしまった。今医療の中心となって働く50才前後の医者達は、医療経済学等は殆ど学ぶこともなく、「医療と金」の問題は、全く自分とは関係もない世界だと

  思ってきた。というより医者が金の事を考えること自体がタブーとされてきた。患者とその家族は、病気を治すには全財産をなげうっても治療を受けなければいけない、

  そんな思いを強くしてきた。医療とコストを考えなければいけない状況においては、日本の医療だけでなく、世界的な視野に立った時、感情論や理想論では人を救う

  ことは出来なくなっている。人の命の貴さは分かっているつもりでも、実際の臨床では、それが成り立たなくなっていることを実感する。平等に人の命を救うことは最早

  出来ないのだ。アメリカ式の医療を推し進めれば、専門性の高い医療を受けられるようにはなるが、医療保険の差による、医療環境の差が産み出される。その結果、

  金のある人だけが有能な医者の治療を受けられることになる。極端な言い方をすれば「命が金で買える」ということなのだ。そんな言い方はタブー視されてきたが、

  その事実に目を向け、医療とコストの事を考えていかねばならない状況になっている。日本の医療のアメリカ化が次第に進んでいる。医者の差別化、専門性を打ち

  出すことは、命を金で買える自由と、金のない者は、十分な医療を受けられなくなる危険をはらんでいる。日本では専門医になっても、診療報酬に差がないので、医者

  にとってのメリットはない。あくまでも自己満足的な資格に過ぎない。専門医を医療費の点で差別化することは、医師会の強力な反対がある為に、実現していない。

  更に従順な大学病院の医者達によって、医療に金を求めてはいけないと言う潜在的な抑制がかかっていることも上手く利用されている。日本では自分の能力を高く売

  るという姿勢を、医者として卑しいと評価してしまう風潮があるので、能力があることが高収入に結び付かないと言う不思議な事実がある。「医学研究は自腹を切って

  でも新しい機器を購入するものだ」とか、「金は後からついてくるもので、一流になるまでは、ただただ勉強をすべきだ」などと、金と医療の結びつきが切り離されていた。

  医者も「このまま努力を続ければ、きっと立派な医者になり、お金持ちになるだろう」と実に楽観的な考えで、現実を見ようとはしなかった。しかし、平等を推し進めてきた

  日本の医療も曲がり角に来ている。本来の医療の主役である患者が、医療の質を問うようになってきたからだ。広く浅い医療の時代は終わり、自分だけはより良い

  医療を受けたいと言う患者の願望を満足させるには、結局、医療施設間での競争、医者の評価が必要になり、そこには金がかかってくると言うことだ。アメリカの医者は

  最早保険会社によってコントロールされていると言ってもいい。保険会社の医者への高い評価はいかに安いコストで診断し治療するかであり、それにより保険会社と

  の契約も可能になってくる。肺癌を発見するのに、胸のX線写真2枚撮る医者と5枚撮る医者では、2枚で診断したほうがいい医者ということになる。慎重に何枚も撮る

  医者は問題があるとされてしまう。人間の命が金と切り離されて考えられていたのは、国に経済的な余裕があってのことであり、もはや、その余裕はない。患者側の

  医療への要求水準も上がってきた。そうなれば、限られた医療費をどう分配していくのかが重要な問題となってくる。有能な医者だけが高額の収入を得るようになれば

  、1部の患者は自分達の要求が満足されるかもしれないが、収入の少ない患者は、どうしていけばいいのだろうか。このままでは医療保険は破綻してしまう。だからこそ、

  その中で医療とコストの現実をしっかり見て、その方向を探るしかない。「命は金に換算される」その視点で医療も見直す必要がある。